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『海底二万里』(1870) ジュール・ヴェルヌ著

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『海底二万里』(1870) ジュール・ヴェルヌ著(福音館書店)
アルフォンス・ド・ヌヴィル/挿絵 清水正和/翻訳
初出版1872年 フランス、1973年 日本(1984/9/10 14刷)

ああ、この表紙を見ると、いまだにゾクゾクする!

*************以下、当時の感想メモ

ああ、とうとう読み終えてしまった!
この古くて美しい挿絵のたくさん入った、冒険と人間ドラマに満ちた言葉の宝箱
厚さ10cmものどっしりとした本の重みと、1ページ、1行、1文字ずつに織り込まれたドキドキワクワク、
笑いと涙、すべての素晴らしいエッセンス。

次の本にとりかかりたい興味半分、いつまでもこの不思議な航海に繋ぎとめられていたい気持ち半分。
まるでアナロックス教授と一身同体となって続けてきた半年間の旅が終わった(実際には休みの昼夜、毎朝出勤前の30分間の2週間

「科学冒険小説」というジャンルは初めて。
1872年、今から100年前なのに、科学の飛躍的進歩と、ジュールの驚くべき空想世界は、現代でもほとんど陳腐に思えない。
むしろ、新鮮さに満ちている。

テレビでこれほどリアルタイムに世界を見ているにも関わらず、
世界を旅する夢、ドキドキに欠けている私たちの心に語られる7つの海の神秘と冒険。

   

地名や岬名、海、川、島の名が出るたびに地図で調べ、本書内の航路図と合わせて、
支配国が変わるにつれて地名も変遷してゆくが、「今ここを走行中なんだ」とリアル感が倍増した。

ここに魚類図鑑があれば完璧。なにせ次から次へと出てくる科や目、、、
ウチのミステリーゾーンに、多分、小学校の時に買ってもらった素晴らしい図鑑が眠ってるだろうに残念。

無味簡素な魚の記録やらを補って余るのは、やはりそれぞれのキャラがハッキリしていること。

「ああ、勇敢なネッド! 私は君をずっと思い出していたいために、なお100年も生きることを願うほどだ!」

無数の感動的な名文句の中のひとつ。

このカナダ人の銛打ちは、血気早いと思えば、なかなか自制心がある時もある。
食いしん坊で、学者でない彼は、潜水艦ノーチラス号の中では、哀れな捕われ人でしかなく、
生まれ故郷ケベックに置いてきた思い出ばかりを思い返し、脱走計画ばかりを考える。
だが、大ダコ襲撃の際も、氷山に囲まれて窒息寸前の時も、勇気の塊となって教授らを助けた。

「算数と同じです。あんたの命のほうが、わしらのより高い。だからあんたの命を保たせなきゃならないってことですわ」
「いや、それは違う。君たちのように勇敢で親切な人間に勝るものはないのだ」

そして、分類好きのコンセーユは、主人に命まで預けて犬のごとく忠実な助手だ。
教授と一緒に海に自ら飛び込み、この数奇な冒険を共にすることになった。

彼もまた窒息しかかった時は、
「ああ! もっと空気を先生に差し上げるために、私が呼吸しないでいれたら!」

と泣かずにはいられないセリフを言うし、見るもの全てを分類する姿はとても可笑しい
そのくせサンマ、エイも見分けられない実践性に欠けている。

3人で脱走計画を話し合う時など「私は先生と同意見だから、実際は1対1の評決だ」というほどの献身ぶりはフシギ。
映画『八十日間世界一周』の時のエリック・アイドルが演じた執事の役割と似ている。

アナロックス教授は、ジュールの分身とも言え、読者を導き、同化させる語り手。
海底探査の著書の作者で、ノーチラス号に軟禁状態となった運命は学者としての好奇心、探究心を大いに刺激し、
満足させる結果となり、2人の仲間とネモ艦長との間で揺れ動く微妙な存在でもある。




ジュールは「時々読者を笑わせる」ことのできる作家の一人で、真珠採りに伴うサメの恐怖から
説明の中に「サメ」を通貨等と間違えて連発してしまったりするシーンなどは爆笑もの!

ネッドやコンセーユの会話に気の利いたユーモアがちりばめられているのも飽きずに楽しく酔い続けられるポイント。
いくつもの短いセンテンス形式なのも嬉しかった。
1つの章ごとに、その小タイトルが期待させる以上の冒険が詰まっている。

ぼんやりイメージしていた大ダコとの決闘シーンなど、後半の冒険の1つにすぎない。




最も印象的なのは、やはり氷に捉えられて命拾いした南極大陸の話。
日本中心に描かれた二次元の地図だと、どうしてもイメージしにくいけど、
南の果てにこんな想像を絶する世界があるなんて、地球もまだまだおっきなドキドキするミステリーの宝庫なんだ!


そして最後はネモ艦長。
「だれでもない人」を表す仮名といい、不可解な言動はついに謎のまま消えてしまい、私たちの心を捕えて放さない。
やはり私が想像した通り、妻子を殺された傷と憎悪に駆り立てられているんだ。
祖国が攻められ、全滅したかなにかで、陸地とその人間社会に永久に別れを告げ、
同胞たちと航海を始めて3年ほど。まだそれほど長くないのがポイント。

家族を失った悲しみほど強烈で、また目標に真っ直ぐ向かって団結、統率できる絆はないもんね。
静かな夜にサロンに響く虚ろで憂いにとり憑かれたオルガンの音色が耳に届くようだ。
船とともに沈んだ財宝を貧しく虐げられた人々に与えている男でもある。

そして、ついにラストでは敵国の船(その国名は謎のまま)を丸ごと沈めてしまう。
『神秘の島』で、その秘密の全貌が明かされているとのこと。
いつになるか分からないけど、必ず読まなきゃ。

とにかく、この730Pの超大作のストーリーをできるだけ記憶に留めたくてメモりたいけど、できるかしら?
概略だけでも2Pにはなりそうだから、本当にあらましだけでも・・・


▼あらすじ(ネタバレ注意

【第1部】
1866年、怪物が海に出没したというニュースが飛び交い、船にも危険を与えたため、
「エイブラハム・リンカーン号」は、教授らを乗せて、退治に燃え、出航する。
一角クジラの一種と思い込んでいた教授は、巨大な燐光を放つ怪物にビックリ。
最も無関心だった銛打ちネッドが第一目撃者の賞金をもらえることになったが、
怪物に攻撃を受け、海に投げ出された3人が偶然掴んだものは、巨大潜水艦の甲板だった。



「MOBILIS IN MOBILI」(ラテン語で「動中の動」の意)


まもなく十数人の男たちに暗い部屋に監禁され、ネモ艦長と出会う。
3人はもはや制約された自由をもつ軟禁の身。
アナロックス教授は電力で動く艦内外の素晴らしい仕組み、海藻他の布でできた衣類の説明を受けて驚くばかり。

図書室、サロン、ガラスケースの中の無数の標本、そして日本近海を出発したノーチラス号の窓が開き、深海の生きた標本の姿を見る
クレスポ島での狩りの招待は、陸ではなく海底の森を、今でいうダイビングスーツで電気銃を持ってする。
ヴァニコロ島では、世界探査をルイ16世に命じられた軍艦が消えた。
そのルイ16世直筆の書を証拠に持つネモ艦長。

トレス海峡で座礁したノーチラス号は、満潮時を待つ間、野蛮人に襲われそうになるが
ハッチに電流が流され、カミナリに打たれたようになる。
島ではネッドが狩りと料理の達人ぶりを披露する。

この後、何かを発見したネモ艦長は、3人を再び監禁部屋に閉じ込め、睡眠薬入り夕食で眠らされてしまう。
目覚めると重傷の水夫の診察を頼まれる。教授は元医師!
水夫は死亡。サンゴの墓地に静かに、荘厳におさめられた。





【第2部】
真珠採りを見にセイロン島へ。洞窟の中に巨大シャコ貝がいて、ネモ艦長があらかじめしこんでおいたパールが際限なく育っている。
季節はずれを狙って潜る地元の男がサメに襲われかけ、艦長は助けて、パールを袋ごと渡してあげる。

「あのインド人は虐げられている国の一住民なのです。私は最期の息を引き取るまでそうい国の人々の味方です」

紅海から地中海へ一発で抜ける「アラビアン・トンネル」(これは実在するのか!?)
地中海で金塊を受け取った魚のような男は、艦長の唯一の陸上との架け橋か?

「今夜、脱出します」というネッド。
が、艦長はヴィゴー湾に沈んだ金銀財宝の回収でおじゃんになる。
そして、なんと教授は、あの幻の失われたアトランティス大陸の姿を見た!!


電力の源となる石炭の補給のため火山の洞窟に停泊。教授は軟体動物になる夢を見るw
ノーチラス号は、今まで誰も見ていない1万6000mの海底に潜り、その写真まで撮った。
マッコウクジラの群れに出会い、船で皆殺しにしてしまう。



ネッド「私は漁師で屠殺業者じゃねえよ」

(自然を愛し、種の絶滅を招く大量虐殺に反対してるのに話が矛盾している。
 クジラはそんな凶暴じゃないのに。シャチのことかしら?
 ジュゴンや、ラッコまで食べちゃうなんて


そして南極に向かい、大陸を発見。南極点を確認する。
そして最大の難事件、氷山がひっくり返った巻き添えをくらって潜水艦ごと氷に閉じ込められてしまった。

1日ごとに新鮮な空気を入れ替える必要のあるノーチラス号は、圧縮酸素を使っても4日間しかもたない。
しかも周囲が次第に凍ってせばまり、圧死も考えられる。
底10mの氷をツルハシで交替で掘り、熱湯を出しながら、あと1m窒息寸前で突き抜けて海上に出て危機一髪!

コンセーユ「先生もご遠慮なく吸って下さい。(空気は)いくらでもありますよ」w


アメリカ大陸に沿って進み、大ダコの伝説について語っていたら本当に化けものダコの群れに囲まれる。
スクリューに足をからめて止まってしまい、皆で戦うが、またしても乗組員が1人犠牲となった。
彼はフランス語で「助けて!」と叫んだ。

メキシコ湾からNY付近で蒸気船の攻撃を受ける。
ノーチラス号の一撃で船は沈められ、復讐心によって殺された人々を窓から眺めるネモ艦長。
彼の部屋には、若い夫人と子ども2人の写真があった。多分、妻子だろう。

ついに脱走を決意。最後に聞いた艦長の言葉は
「神よ! もうたくさんです!」

脱走の場所はノルウェー海の大渦巻きの真っ只中。
ノーチラス号と共にボートも飲み込まれて、気がついたら漁師に3人とも助けられていた。
旅をしてから10ヶ月後だった。ラストの締め文句もイイ。

「6000年の大昔、『伝道の書』によりなされた“かつてこの深淵を究め得し者ありや?”という問いに対して、
 今のところ全人類のうち2人だけが答える権利を持っている。それはネモ艦長と私だ」


1996.10.12


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