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『見学しよう工事現場3 ダム』(ほるぷ出版)

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『見学しよう工事現場3 ダム』(ほるぷ出版)
溝渕利明/監修

毎日、お世話になっているのに、それが造られる工程、機能、意義などはまったく知らないことがたくさんある。
こうゆう子ども向けの大型本は、写真も多く、説明が簡潔で、大人でもとっても分かりやすいから、
いろんな身の回りのことを知るキッカケとして最適だと思う。

本書は、2011年初版で、「湯西川ダム@栃木県日光市」を例に取り上げている(2012年3月完成予定とあり=3年後の設定
てか、栃木だけでもこんなにダムがあるの それにダム好きのツアーまで!驚×5000

今回の湯西川ダムは、工程を効率的に早く進めるための工夫や努力があって、約3年間という異例の早さでの完成を目指したそう。
でも、ダムを造る前の調査、地元の方々の説得等々にもたくさんの時間を費やしているため、
自分が造ったダムの恩恵を受けない現場の方も少なくない、壮大なプロジェクトだということも分かった。

農業用水のため、洪水予防のため、毎日水道水が使えるのがダムのお陰なら、
ヒトが生活するだけで自然を破壊してるってことも言える
でも、それを一生の仕事として誇りに思い、家族を養ってる人たちがいる。
善悪は混ざり合っていて、ハッキリとは決められないんだ。


【内容抜粋メモ】

ダムの種類について


********************工程

 


堤体の断面図

[湯西川ダムの建設目的]
1.洪水が起きた時の調整
2.茨城、千葉、宇都宮市への水道用水の供給
3.栃木への農業用水の供給
4.千葉への工業用水の供給


[構造~重力式コンクリートダム]
堤高(ダムの高さ):119m
堤頂長(ダムの長さ):320m
体積:103万m3
工事予定期間:2008/9~2012/3(かつてないスピード工事

造るには、ダンプ25万台相当のコンクリが必要


[工程詳細]

1.調査
・その地域にダムが必要か(台風等の川の氾濫による洪水など
・農業用水、飲料水、電気の供給量

(必要と判断した場合)
・どこにつくるか地質調査をして候補地を決める(約5~10年間)
・用地の確保、水没する家や農地の人たちを説得、代替地を探して移転費用を補償(約10年間)
・環境調査(生態系への影響など。湯西川ダムは「日光国立公園内」にあるのでとくに重要。
 希少動物、野鳥の生息調査などを検討する

(計 20年以上)


2.準備工(約2ヶ月間)
・木を切る
・工事用、付け替え用の道路をつくる。水没する道路や橋をつくりかえる
・周辺設備をつくる
事務所(工事事務所から現場まではクルマで約5分かかる
骨材(コンクリの材料となる砂利、砂)プラント
バッチャープラント(コンクリートをつくる)
ケーブルクレーン
濁水処理場
資材置き場
変電設備 など

 
骨材を運ぶベルトコンベア/コルゲートビン(骨材を貯めておく


ロッドミル(砂利をすり潰して砂をつくる)

・川の流れを変える

川の流れを変えるトンネル「仮排水路」


3.基礎掘削工(約10ヶ月間)
・基礎となる岩盤が出るまで、川底と山の表面を切り崩し、モルタルを吹きつけておさえる。「法枠(のりわく)」


掘削が終わった右岸


5.本体コンクリート工(約1~2年間)
(後述)


6.試験湛水
少しずつ水を貯めて異常がないか確認する。

(計 40年ほど)


********************ダム工事現場の1日

朝7時:朝礼、打ち合わせ

現場での作業

夜7時:夜の部の作業開始


現場は、約300人体制。2交代制で24時間作業しているため、細かい打ち合わせが重要。
土曜は隔週で休み。日曜は休日。
雨の日は中断。冬(12~2月末)は休み



********************コンクリートのつくりかた

セメントは九州でつくられ、千葉県習志野市で荷揚げされ、毎日トラック20台が運ばれてくる


バッチャープラントで、水とセメントと骨材等を混ぜる


コンクリの品質は、水量、温度に大きく影響されるため、すべてコンピュータで管理している。


[品質試験]

2時間おきにバッチャープラントからコンクリを取り出して、確認する


[運ぶ]
 
上空を移動するコンクリートバケット/「SP-TOM」

コンクリは時間が経つと固まるため、いかに早く、大量に、打設現場に運ぶかが重要。
今回、ケーブルクレーンや「SP-TOM」を使って約3年間で完成させる試みがされた。


[敷きならす・締め固める]

ブルドーザーで敷きならし→ローラーで締め固める。手前はグランドホッパー。

 
GPSセンサーのついた振動ローラー/章動ローラー(表面を平らにならす)

コンクリは、打設後に冷えて縮む性質があり、ひび割れの原因となるため、15mごとに目地を入れる。


 
バイブレーター、バイバックで締め固める/コンクリの配合区分をかえて耐久性を高める


[構造物の取り付け](打設等と並行に行われる)



・取水設備:ダムの水を安定的に供給する設備

・水位観測装置



[岩盤の水漏れを防ぐ]

ロータリーボーリングマシン(孔をあけてセメントミルクを注入し、岩盤の亀裂の間を埋める)
1つの孔に130mまでセメントミルクを入れるのに1カ月かかる


[型枠の移動]

[コンクリート面のそうじ]


コンクリの表面は、放っておくと水漏れの原因になるので、レイタンス層をバキュームカーで吸い取ったり、
高圧の水やポリッシャーで削ったりする。「グリーンカット」


********************インタビュー


松永さん

大学で土木を専攻。
トルコや台湾に旅行に行った時、日本人が活躍しているのを見てカッコいいと思った。
途上国のために何かできればいいなと思う。



「ダム建設には土木工事のすべての要素がある」岡山さん

発注先の「国土交通省」担当者の打ち合わせなどしている。
印象に残っているのは、胆沢ダムの現場で岩手・宮城内陸地震を経験した時。

現場では、人と機械が近くで作業しているので「接触事故」がないよう注意している。
現場には逃げ場がないので雷などの天気予報も気になる。
湯西川ダムは、技術提案で「工期の短縮」を掲げたため、スケジュール管理が大変



成田さん

ダム建設に関わって約30年。12箇所に関わった。
今では、車両機械、振動工具取扱など20以上の資格を持っている。
最終打設を終えて、全体を見渡した時「やった!」という達成感がある。
水資源や水力発電は大切。もっと日本にもダムがあってもいいと思う。



********************世界のダム

ダムは5000年前のエジプト王朝時代にすでにあったという記録がある。
ナイル川にダムをつくり、都市メンフィスに送った。

巨大ダムの登場
古代は、上水道、農業用水の供給が目的だったが、17Cのヨーロッパでは洪水の調節が目的となった。
20C、コンクリ素材の開発、工事の機械化がすすみ、次々と巨大ダムが建設された。


巨大ダムの代表はアメリカの「フーバーダム」(1936)
総貯水容量は348億m3。これは日本国内のダムすべての総貯水容量より多い。

第二次大戦後、ダムはますます巨大化する。
2009年、中国・長江の「三峡ダム」は、世界最大の発電量を誇る発電所を持っている。


********************日本のダム

日本では、主に農業用のため池としてつくられた。
日本最初のコンクリート式ダムは「布引五本松ダム」(1900)。電気が使われるのと同時期。

1920~1930年代は、高価なコンクリートの使用量を抑える「バットレスダム」ができた。
これは地震に弱いと分かって衰退。「丸沼ダム」


戦後復興をささえたダム
1950年代、復興にはもっと電力が必要だと言われ、水力発電用ダムが相次いでつくられた。


ダムの伝説をつくった「黒部ダム」
1963年、日本の秘境と言われる黒部峡谷に、高さ186m、日本一のアーチ式コンクリートダムができた。
大町トンネルで出水事故などがあり、工事は大幅に遅れ、資材を人力で山越えして運んだなどの逸話がある。
多くの犠牲者を出して7年目にやっと完成。


技術革新
1960年代、電力は水力→火力に比重が移る。
1970年代、「RCDコンクリート工法」が開発。湯西川ダムがその例。


[解説~溝渕利明教授]

ダムと堰のちがい
ダムとは、川などの水をせき止めるための構造物のこと。
法律では、高さ15m以上を「ダム」、それ以下を「堰」と決められている。

日本には約2800のダムがある。
それでも、「フーバーダム」より貯水量が少ないのは、地形が大きく異なるから。

日本の国土面積の約70%は山地。
ダムをつくっても貯める場所が少なく、山が多いと川の流れが早く、雨が一気に流れ下ってしまう


環境保護とダム
たくさんダムがあるのは「洪水を食い止める」ため。
「ダムは環境破壊になる」「山に木を植え、高い堤防をつくれば洪水は防げる」とやめようとした県もあった。


社会の変化
ダムの計画から完成までには、技術の進歩、ものの考え方、産業構造の変化、農業の衰退などがあり、
完成した頃には「本当に必要なのか?」「税金の無駄遣いだ」と言われたダムもある。


ダムの将来
ダムを造ろうとした人たちは、自分の代にはほとんどその恩恵を受けることなく、その先の代のためになると思っていた。

今、日本の林業は荒廃している。
第二次大戦後、国内の木材が不足し、造林を急速に進めるために、広葉樹を中心に天然林を伐採し、
代わりに成長が早いスギ、ヒノキ、マツなどの針葉樹が中心の人工林に置き換えた(花粉症の発端はここかあ


わずか十数年間に人工林が約4割増えた

当時は木材自給率は9割だったが、1964年、木材が「全面自由化」され、大量に安い木材が輸入され、
1980年以降、国内の木材価格はどんどん下がり、今では手入れもされずに放置され、台風等による土砂災害の原因にもなっている。
木材自給率も2割程度まで落ち込んだ。


森は自然のダム
日本は7割が山地で、雨が降ると一気に流れ下る地形が多いため、洪水対策はますます重要。
森を再生するには、ダムの建設以上の長い時間がかかる。



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