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『バナナブレッドのプディング』大島弓子/著

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『バナナブレッドのプディング』大島弓子/著(白泉社文庫)
収録作品:バナナブレッドのプディング/ ヒー・ヒズ・ヒム/草冠の姫/パスカルの群れ

「草冠の姫」と「パスカルの群れ」は、以前読んだので省略。
大島弓子短編集2『たそがれは逢魔の時間』(小学館)

【内容抜粋メモ】(ネタバレ注意

「バナナブレッドのプディング」
それぞれの小タイトルも興味深い。とくに私の好きな「ライナスの毛布」とか。



今作でも大島さんの詩的なセリフがたくさん出てくる。哲学専攻ってところもミソ。


PARTI1 インスタントコーヒーになる前
転入してきたばかりの三浦衣良。「なぜそう深刻なんです?」(教師)
「きょうはあしたの前日だから。だからこわくてしかたないのですわ」

自己紹介でも「イライラの衣良です。なぜかというと、姉(沙良)があした結婚するんです。
そしてわたしがインスタントコーヒーになってしまう日でもあるんです。
つまり血液がフリーズドライ化してしまうほどこわい日だということです」



同じクラスに幼なじみの御茶屋さえ子がいると分かって大喜びする2人。
しかし、イラがいまだ少女のままで、奇行が多いので、心配した両親が精神鑑定させようと囁いているのを聞いたと知って、
心配したさえ子は「BFを作ればいい!タイプは?」「うしろめたさを感じている男色家の男性」



サッカー部のマネージャーをするさえ子の人脈から聞き出すと、さえ子の好きな奥上がゲイと分かってショック。
そこに来た好色家の兄・御茶屋峠(コーチ)を紹介されたと勘違いするイラ。まあ、意外とうまくいくかもと思うさえ子。

本気の石蹴りで負けたイラは、峠に「形式上の結婚」をするという。
昔、薔薇の庭からカリリカリリと音が聞こえて行ってみると、
「ありがとう さみしかったんだ うれしかったよ」と声が聞こえた話をするイラ。

サラの結婚式に出席せず、峠の家で暮らし始めるイラ。
峠にはさえ子からの手紙で「今お兄様がお見捨てになったら病院行きだから助けてやって欲しい」とワケを話す。


イラが怖がった「アブストラクト(抽象芸術)」の絵のタイトルは「出発」だった




PARTI2 ライナスの毛布
さえ子が仲人となり「世間には夫婦、実は友だち」の関係を守ると誓う。
イラ「この式には、あなたの男恋人を呼ぶべきだった」と言い出し、奥上がゲイだから連れてくるというさえ子。
2人が外でも素直に愛情表現できるまで、「私はカーテンだと思って仲良くしてほしい」と言うイラ。
上着を忘れていった奥上に届ける峠との様子を見つめる新潟教授。


イラは、毎晩、人喰い鬼の夢にうなされる。子どもを誘ってひき肉料理にして食べられる夢

奥上は、「僕のムッシュに殴られた」と傷だらけになっていた。相手はとても執念深いのだという。


眠る奥上は「コーチ」と寝言を言うのを聞いてしまうさえ子。奥上は峠を好きだった

峠は代わりに柔道部員を呼ぶが、キスしようとして思わず投げ飛ばされる。
まだ人前ではムリだという峠に、なぜか喜ぶイラ。

峠「わが身のことばかり考えていた。カーテンならぬ“ライナスの毛布”を必要なのはこの子のはずなんだ」


PARTI3 ドッペルベンガー
サッカーの練習時に倒れる奥上。峠を想って睡眠不足になっていた。
彼は以前、思いつめて線路脇を歩いていたところを、教授に救われて付き合いが始まった。

また暴力を振るわれた奥上。
「もとはといえば、オレが男色家を装うため、君に芝居をしてもらったからだ」と言う峠の言葉を聞いて、混乱するイラ。



イラは御茶屋家を飛び出して、サラが帰省してないか確かめに行くが、新婚旅行が延長して、いなかった。

「もうみんな時間に区分けされてしまった。
 サラは結婚の世界に。お父さんとお母さんは、また2人の世界に。
 私は何をしていいか分からない、またもとのイラに戻っちゃった」

イラは教授宅に行き、誤解を解いて、まさに「うしろめたさを感じている男色家の男性」の家に住むことにする。


峠は、自分ソックリな男と鉢合わせになり、それがさえ子だと知る

さえ子は時々、峠になりすまして奥上に会っていたため、教授の嫉妬を増幅させていたと分かる。


PARTI4 人生にスロービデオがきいたなら
教授はイラをしばらく預かると両親を説得し、母はまた号泣する。

イラ「きまっていることだ。イラのすることなすこと、ことごとく母は泣く。父は溜め息をつく」

教授は「これがもっとも対等で残酷な仕打ちだ」と納得する。イラがいなくなって、峠が失望した様子を見たから。
授業中も上の空の峠に「今の君はタバコが必要だ。火をつけては消し、つけては消し、間をもたせたまえ」

峠を装ったさえ子は、奥上とキスのチャンスを目の前にして支離滅裂な説明をする。

「テレビで見たんだ。ヒョウがサルを襲った時、スロービデオになって、
 その表情たるや“襲う”ではなく、まるで“守る”動きをしていたのだからね」
奥上「で、どっちがヒョウになります?」

イラは峠に対する自分の不可解な気持ちが恋だと理解できずに、以前から憧れていたバナナブレッドのプディングを作ってみるが、
「バナナブレッドのプディングは、はがしてしまいたい擦り傷の、かさかさ かさぶたの味がした」

とうとう夢の中で、イラは鬼に食べられてしまう。
「ああ、きっとエクソシストの悪魔つきも、夢の鬼に負けたのが原因じゃないかしら。かわいそうなリーガン」


PARTI5 お酒の力をかりて
イラは鬼となって、教授がフグの毒を食べて死ねばいいと思いはじめ、そんな自分を隠すために前髪で顔を覆い隠す。
そして、峠のチームは大会に惨敗。原因は練習不足。奥上は退部届けを提出する。
奥上は教授に峠への気持ちが再燃したことで別れ話をして、また暴力を受ける。

 

それが自分のせいだと責め、線路づたいをウロウロ歩くさえ子に、メイクをした奥上が諭す。

「君ははじめから兄貴と一心同体を目指していたんだ」
「それじゃ近親相姦じゃない?!」

「違うと言いきれるか? 君の男色家を愛するゆえの苦悩は、お兄さんとの距離から考えなければならないと思うよ」
「近親相姦願望は、胎内復帰後退性思考だというのね。じゃ、まさかあなた、それは同性愛思考に結びつくなんて言うんじゃないでしょうね?」
「そのとおりです。僕はこの考え方を“数珠繋ぎ思考”と命名しているのです」

さえ子は大いに納得し、海外留学を決める。


家でヤケ酒を飲んで荒れる教授に、奥上と間違えられて首を絞められ、咄嗟につかんだナイフで傷つけたイラ。

「わたしはナイフを持って走っている。なんでこんなに寂しいのだろう。
 人がひとり減ったから わたしが一人さしたから だあれもフィルムをもどせやしない」

自分も死のうと思っていると、母から教授はかすり傷だったと言われる。イラは咄嗟に御茶屋家に入って引きこもる。

「わたし、いつか完全な鬼になってしまうんです。かろうじて今は、良心の呵責に苛まれることのできるイラですけど。
 わたしはいつか本当に人殺しだってやってしまうかもしれない」

「そんな時は、僕はさっと身をひき、さっと台所まで走り、さっとミルクを沸かす。そして君に渡す。
 “さあミルクを飲んで。心が和むよ”。そうすると、君は落ち着いて、うなずいて“またあしたね”と言うだろう。
 ぼくは君が大好きだ。薔薇のしげみのところからずっとね」

「わたしは今言ってみよう。ミルクを飲んで“あしたね”“またあしたね”」



おかあさん ゆうべ 夢を見ました

まだ生まれてもいない赤ちゃんが わたしに言うのです
男に生まれたほうが生きやすいか
女に生まれたほうが生きやすいかと

わたしはどっちも同じように生きやすいということはないと答えると

お腹にいるだけでも こんなに孤独なのに
生まれてからは どうなるんでしょう
生まれるのがこわい
これ以上ひとりぼっちはいやだ というのです

わたしは言いました。
「まあ生まれてきてごらんなさい」
「最高に素晴らしいことが待ってるから」と

朝起きて考えてみました
わたしが答えた「最高の素晴らしさ」ってなんなのだろう
わたし自身もまだお目にはかかっていないのに

ほんとうになんなのでしょう
わたしは自信たっぷりに子どもに答えていたんです


**************

「ヒー・ヒズ・ヒム」
17才になった記念に前髪を分けてみた冬彦。
登校中のバスで小銭を拾ってくれた女の子・待子にひと目惚れしてしまう。
待子「あの・・・どこかでお会いしませんでした?」

 

冬彦はイギリスの歌手「ピーター・ピンクコート」に似ているのだと気づいて大興奮する。
(グラムロッカー的な?

冬彦は、姉のなすがまま、額に星マークを貼って、なりきって学校に行くと、
ファンクラブの集会に誘われる。その中に待子もいたため、快く引き受ける。

自己紹介で、待子は、去年、憧れて告白した大学生にフラれたのがキッカケでピンクコートのファンになったと話す。
冬彦は待子と近づきたいために、ピンクコートになりきってファンクラブに入会する。
しかし、待子に会いたくても、他の熱烈なファンに邪魔されるため、電話で呼び出す。

待子は、ピンクコートの歌を聴くたび、大学生の行った村に勇気を出しておゆきと言われているようだと話す。
それを聞いた冬彦は、メイクも止めて元の自分に戻るが、姉に無理矢理戻されるww

学校では、「君の目に触れるから頑張ったと成績が大幅なレベルアップを遂げた。
その思いに応えて、全校生徒謝恩会で上演してもらいたい」と頼まれる。

 

冬彦は、謝恩会のステージ上からロープで下がる演出で、衣装を脱いで本来の自分で現れて、落ちる。
夢の中で、ランプを持ったフシギなヒトに呼ばれた気がした。

ベッドで目が覚めると、ピンクコートが心臓発作で舞台で亡くなったと姉から聞く。
ちょうど、冬彦が舞台から落ちた時だった。

待子は、和製ピンクコートの墓碑をこしらえていた。
その土の下に埋めたものは、大学生に会うために集めたもろもろだった。



[あとがきマンガ]
 



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