■ベッリーニ歌劇『夢遊病の娘』(全2幕)@フィレンツェ歌劇場(2004)
台本:フェリーチェ・ロマーニ
演出:フェデリコ・ティエッツィ
指揮:ダニエル・オーレン
出演:
エルヴィーノ…金持ちの若い地主:ホセ・ブロス(T)
アミーナ…孤児だったがテレーザの養女として育つ:エヴァ・メイ(S)
テレーザ…アミーナの養母:ニコレッタ・クリエル(MS)
リーザ…旅館の女将:ジェンマ・ベルタニョッリ(S)
ロドルフォ…伯爵でこの地の領主:ジャコモ・プレスティーア(B)
【ライナー抜粋メモ~岸純信(オペラ研究家)】
メロディラインのとびきりの美しさゆえに「カターニアの鶯」と称されたヴェンチェンツォ・ベッリーニ。
食事面など贅沢をしない彼は、ただファッションだけは非常に気を遣っていたそう。
万人が認める容姿と才能を有した彼だけに、艶聞の類いに事欠かなかったようだ。
結局誰とも結婚せず、急な病であっけなくこの世を去るが、一度、身を固めようと考えたことがあるらしい。
相手はクレリアという名前の13歳の少女。青年作曲家との縁組に、少女の両親らは大いに乗り気だった。
少女の母はジュディッタ。
その人こそ、不世出のソプラノ、ジュディッタ・パスタだった。
パスタは、ベッリーニのミューズとなり、『夢遊病の娘』『ノルマ』『ベアトリーチェ・ディ・テンダ』を初演。
かのマリア・カラスの活躍ぶりを評して「20世紀のパスタ」と呼んだことからも彼女の格を物語っている。
19C前半のオペラ界をリードした台本作者フェリーチェ・ロマーニは、『エルナニ』の主人公エルナーニを、
彼女に男装させて歌わせるプランを練っていたが、計画は頓挫する。
欧州各地で暴動が起きていた1830年当時の情勢からみて、国王に歯向かう男の物語は、検閲当局の反対にあうのは避けがたかった。
それゆえ、牧歌的な『夢遊病の娘』が、新しい題材として考案されたと、今日では推測されている。
マリア・カラスがスカラ座で示した超絶名演(1955.3.5)ほか、数々の名ソプラノが、アミーナ役で個性を発揮している。
「女虎」「鷹」と称された誇り高きディーヴァ、マリア・カラスから柔和な表情を引き出したのは、まさにベッリーニの音楽の力。
非常に簡素なオーケストレーションが目立つ一方、声がむき出しになるアカペラの部分が多く見られることも特徴のひとつ。
♪ああ、私はお前がそんなに早く萎れるのを見ようとは想わなかった、花よ
かのヴェルディにも愛され、ショパンが死の床でも呟いたとも伝えられる名曲中の名曲。
19C、ポルトガル出身の有名な僧侶デ・ファリアが、パリで催眠療法を披露したこともあり、この分野に対する一般的な関心が高まる。
合唱団は、各自の個性をほぼ排除した「揃った動き」に終始し、
室内か屋外か判然としない幻想的な光景の第1幕第2場、
絵画を思わせる山地の荒涼とした冬景色で統一された第2幕など、
舞台装置にも、リアリティをあまり感じさせない心象風景的なトーンが目立つ。
実際に観劇された小畠秀吾氏(犯罪精神医学)によると、19C末における精神分析学の発達には、
このオペラやバレエによって、人々が「夢遊病」という現象に関心を掻き立てられたという事実が大きく影響しているそう。
オーケストレーションの単純さゆえに軽く見られることもあるベッリーニ作品を、
音符の1つ1つから丹念に掬い上げていった、指揮者オーレンの努力が、この演奏に結実している。
プロダクションとしては、2000年末に披露された新演出の再演になる。
▼あらすじ
庭に倒れているアミーナ。真っ赤なイスに座って、奈落に沈む。
エルヴィーノと一時は恋仲にあった旅館の女将リーザは、美しく、清純、誠実なアミーナに奪われたことを恨む。
結婚式で皆はアミーナを讃え、リーザは、彼女に恋するアレッシオ(農民)とお似合いだと言うが、求愛を無視する。
式ではアミーナが養母テレーザへ感謝の歌をうたい、エルヴィーノも亡き母の墓前に挨拶してきたという。
その亡き母の形見の指輪をアミーナに贈る。
そこに、謎の男性(伯爵でこの地の領主ロドルフォ)が現れる。
城までは3マイルもあるからと宿を勧めるリーザ。皆は「誰だろう?」と噂する。
ロドルフォは、土をとり、景色を眺め、「ここで少年時代を過ごしたのだ」と郷愁を歌う。
そして、アミーナの美しさに見とれ、「夫は世界一の幸せ者だ。彼が私ほど君を愛してくれるといいが」などと言うので、
皆「なんとお世辞が上手いこと」とどよめき、エルヴィーノは嫉妬で落ち着きをなくす。
「日が暮れるから帰らなきゃ」というテレーザ。「この辺りには亡霊が現れる」というが、ロドルフォは「迷信だ」と信じない。
♪白い布をさげて、髪を振り乱した亡霊が、丘からおりてくるのです
メモをとるロドルフォ。「ぜひ見てみたいものだ」
エルヴィーノは、自分の嫉妬深さを歌い、アミーナは諌める。
「もう決して君を疑わないと誓うよ」
「眠りの中でもこの心はあなたの姿を見るでしょう」
************
ロドルフォは宿を気に入る。「アミーナも、リーザも美しいし」
それを聞いたリーザは、彼が伯爵だといち早く気づき挨拶する。
リーザを口説き始めるロドルフォ。
そこに突然、眠った状態のアミーナが現れ、リーザはいったん物陰に隠れる。
いまだ式の幸福にひたっている様子の彼女を見て、「夢遊病者だ」とすぐに分かる伯爵。
伯爵「私は裏切るまい」とするが、伯爵を夫と間違えて、すり寄るため「自制心が揺らいでしまう」とその場を去る。
その様子を見ていたリーザは悔しさのあまり、エルヴィーノのもとへと走る。
ロドルフォが伯爵だと気づいた村人が、挨拶をしたいと宿に群がる。「ドアが開いている」
そのソファにアミーナが寝ていることに気づき仰天する。
目覚めたアミーナは、わけが分からず身の潔白を訴えるが、「ひどい裏切りだ」と責め立てられる。
そこにリーザがエルヴィーノを連れてきて、彼は激怒するあまり「結婚は中止だ!」と叫ぶ。
この時々出てくる絵が、ギリアムのカートゥーンみたいで可愛い
************第2幕
皆は森で休みつつ、伯爵にアミーナの身の潔白を証明してもらおうと考える(なんだ、いい人たちじゃん
エルヴィーノの農場に来たテレーザもアミーナに「伯爵が証明してくださるだろう」「勇気がないわ!」
テレーザ♪エルヴィーノもきっと悲しんでいる。お前と同じくらいに
エルヴィーノもやって来て、♪僕は世界一不幸な男だ と歌うので、「彼はまだ私を愛しているのだわ」と希望を持つアミーナ。
そこにロドルフォも村人も来て、アミーナは潔白だと言うが、まだ嫉妬に駆られているエルヴィーノは、
アミーナから指輪を奪い上げ、リーザに求婚する(面倒な男だな
リーザ「私は誠実な女です」
テレーザ「もう我慢ならない! 伯爵の部屋にリーザのヴェールが落ちていました。伯爵は潔白を証明してくれますか?」
伯爵「その件については今は言うまい。でも、アミーナは夢遊病者なのだ」「まさか!」
ざわめく村人に、テレーザ「静かにしてください。アミーナが散々泣いた後、やっと眠ったのです」
アミーナは、再び眠ったままフラフラと橋の上を歩いているのを見る村人たち。
無意識のまま、自分の不幸を嘆く名曲が♪ああ、私はお前がそんなに早く萎れるのを見ようとは想わなかった、花よ
♪ああ、もう一度彼に会えたら 私は彼を失ってしまった
けれども、私は彼を許します
私が不幸なのと同じだけ、彼が幸せでありますように
死んでゆく私の最後の心からの祈りです
指輪は奪われてしまった! 花は萎れてしまった
ああ、信じられないわ たった1日しか続かなかった愛のように
それを聴いていたエルヴィーノも♪もう耐えられない 彼女は無実だ と認める。
ロドルフォ「指輪を返してあげなさい」
目覚めたアミーナは、すべてが元通りになったことに驚き、この喜びは誰にも分からないでしょうと歌う。
♪私たちが生きるこの地上に 愛の天国を築きましょう!
素晴らしいソプラノで、もう一度同じ喜びのフレーズを繰り返す/涙
ハッピーエンドは気分がイイね。
台本:フェリーチェ・ロマーニ
演出:フェデリコ・ティエッツィ
指揮:ダニエル・オーレン
出演:
エルヴィーノ…金持ちの若い地主:ホセ・ブロス(T)
アミーナ…孤児だったがテレーザの養女として育つ:エヴァ・メイ(S)
テレーザ…アミーナの養母:ニコレッタ・クリエル(MS)
リーザ…旅館の女将:ジェンマ・ベルタニョッリ(S)
ロドルフォ…伯爵でこの地の領主:ジャコモ・プレスティーア(B)
【ライナー抜粋メモ~岸純信(オペラ研究家)】
メロディラインのとびきりの美しさゆえに「カターニアの鶯」と称されたヴェンチェンツォ・ベッリーニ。
食事面など贅沢をしない彼は、ただファッションだけは非常に気を遣っていたそう。
万人が認める容姿と才能を有した彼だけに、艶聞の類いに事欠かなかったようだ。
結局誰とも結婚せず、急な病であっけなくこの世を去るが、一度、身を固めようと考えたことがあるらしい。
相手はクレリアという名前の13歳の少女。青年作曲家との縁組に、少女の両親らは大いに乗り気だった。
少女の母はジュディッタ。
その人こそ、不世出のソプラノ、ジュディッタ・パスタだった。
パスタは、ベッリーニのミューズとなり、『夢遊病の娘』『ノルマ』『ベアトリーチェ・ディ・テンダ』を初演。
かのマリア・カラスの活躍ぶりを評して「20世紀のパスタ」と呼んだことからも彼女の格を物語っている。
19C前半のオペラ界をリードした台本作者フェリーチェ・ロマーニは、『エルナニ』の主人公エルナーニを、
彼女に男装させて歌わせるプランを練っていたが、計画は頓挫する。
欧州各地で暴動が起きていた1830年当時の情勢からみて、国王に歯向かう男の物語は、検閲当局の反対にあうのは避けがたかった。
それゆえ、牧歌的な『夢遊病の娘』が、新しい題材として考案されたと、今日では推測されている。
マリア・カラスがスカラ座で示した超絶名演(1955.3.5)ほか、数々の名ソプラノが、アミーナ役で個性を発揮している。
「女虎」「鷹」と称された誇り高きディーヴァ、マリア・カラスから柔和な表情を引き出したのは、まさにベッリーニの音楽の力。
非常に簡素なオーケストレーションが目立つ一方、声がむき出しになるアカペラの部分が多く見られることも特徴のひとつ。
♪ああ、私はお前がそんなに早く萎れるのを見ようとは想わなかった、花よ
かのヴェルディにも愛され、ショパンが死の床でも呟いたとも伝えられる名曲中の名曲。
19C、ポルトガル出身の有名な僧侶デ・ファリアが、パリで催眠療法を披露したこともあり、この分野に対する一般的な関心が高まる。
合唱団は、各自の個性をほぼ排除した「揃った動き」に終始し、
室内か屋外か判然としない幻想的な光景の第1幕第2場、
絵画を思わせる山地の荒涼とした冬景色で統一された第2幕など、
舞台装置にも、リアリティをあまり感じさせない心象風景的なトーンが目立つ。
実際に観劇された小畠秀吾氏(犯罪精神医学)によると、19C末における精神分析学の発達には、
このオペラやバレエによって、人々が「夢遊病」という現象に関心を掻き立てられたという事実が大きく影響しているそう。
オーケストレーションの単純さゆえに軽く見られることもあるベッリーニ作品を、
音符の1つ1つから丹念に掬い上げていった、指揮者オーレンの努力が、この演奏に結実している。
プロダクションとしては、2000年末に披露された新演出の再演になる。
▼あらすじ
庭に倒れているアミーナ。真っ赤なイスに座って、奈落に沈む。
エルヴィーノと一時は恋仲にあった旅館の女将リーザは、美しく、清純、誠実なアミーナに奪われたことを恨む。
結婚式で皆はアミーナを讃え、リーザは、彼女に恋するアレッシオ(農民)とお似合いだと言うが、求愛を無視する。
式ではアミーナが養母テレーザへ感謝の歌をうたい、エルヴィーノも亡き母の墓前に挨拶してきたという。
その亡き母の形見の指輪をアミーナに贈る。
そこに、謎の男性(伯爵でこの地の領主ロドルフォ)が現れる。
城までは3マイルもあるからと宿を勧めるリーザ。皆は「誰だろう?」と噂する。
ロドルフォは、土をとり、景色を眺め、「ここで少年時代を過ごしたのだ」と郷愁を歌う。
そして、アミーナの美しさに見とれ、「夫は世界一の幸せ者だ。彼が私ほど君を愛してくれるといいが」などと言うので、
皆「なんとお世辞が上手いこと」とどよめき、エルヴィーノは嫉妬で落ち着きをなくす。
「日が暮れるから帰らなきゃ」というテレーザ。「この辺りには亡霊が現れる」というが、ロドルフォは「迷信だ」と信じない。
♪白い布をさげて、髪を振り乱した亡霊が、丘からおりてくるのです
メモをとるロドルフォ。「ぜひ見てみたいものだ」
エルヴィーノは、自分の嫉妬深さを歌い、アミーナは諌める。
「もう決して君を疑わないと誓うよ」
「眠りの中でもこの心はあなたの姿を見るでしょう」
************
ロドルフォは宿を気に入る。「アミーナも、リーザも美しいし」
それを聞いたリーザは、彼が伯爵だといち早く気づき挨拶する。
リーザを口説き始めるロドルフォ。
そこに突然、眠った状態のアミーナが現れ、リーザはいったん物陰に隠れる。
いまだ式の幸福にひたっている様子の彼女を見て、「夢遊病者だ」とすぐに分かる伯爵。
伯爵「私は裏切るまい」とするが、伯爵を夫と間違えて、すり寄るため「自制心が揺らいでしまう」とその場を去る。
その様子を見ていたリーザは悔しさのあまり、エルヴィーノのもとへと走る。
ロドルフォが伯爵だと気づいた村人が、挨拶をしたいと宿に群がる。「ドアが開いている」
そのソファにアミーナが寝ていることに気づき仰天する。
目覚めたアミーナは、わけが分からず身の潔白を訴えるが、「ひどい裏切りだ」と責め立てられる。
そこにリーザがエルヴィーノを連れてきて、彼は激怒するあまり「結婚は中止だ!」と叫ぶ。
この時々出てくる絵が、ギリアムのカートゥーンみたいで可愛い
************第2幕
皆は森で休みつつ、伯爵にアミーナの身の潔白を証明してもらおうと考える(なんだ、いい人たちじゃん
エルヴィーノの農場に来たテレーザもアミーナに「伯爵が証明してくださるだろう」「勇気がないわ!」
テレーザ♪エルヴィーノもきっと悲しんでいる。お前と同じくらいに
エルヴィーノもやって来て、♪僕は世界一不幸な男だ と歌うので、「彼はまだ私を愛しているのだわ」と希望を持つアミーナ。
そこにロドルフォも村人も来て、アミーナは潔白だと言うが、まだ嫉妬に駆られているエルヴィーノは、
アミーナから指輪を奪い上げ、リーザに求婚する(面倒な男だな
リーザ「私は誠実な女です」
テレーザ「もう我慢ならない! 伯爵の部屋にリーザのヴェールが落ちていました。伯爵は潔白を証明してくれますか?」
伯爵「その件については今は言うまい。でも、アミーナは夢遊病者なのだ」「まさか!」
ざわめく村人に、テレーザ「静かにしてください。アミーナが散々泣いた後、やっと眠ったのです」
アミーナは、再び眠ったままフラフラと橋の上を歩いているのを見る村人たち。
無意識のまま、自分の不幸を嘆く名曲が♪ああ、私はお前がそんなに早く萎れるのを見ようとは想わなかった、花よ
♪ああ、もう一度彼に会えたら 私は彼を失ってしまった
けれども、私は彼を許します
私が不幸なのと同じだけ、彼が幸せでありますように
死んでゆく私の最後の心からの祈りです
指輪は奪われてしまった! 花は萎れてしまった
ああ、信じられないわ たった1日しか続かなかった愛のように
それを聴いていたエルヴィーノも♪もう耐えられない 彼女は無実だ と認める。
ロドルフォ「指輪を返してあげなさい」
目覚めたアミーナは、すべてが元通りになったことに驚き、この喜びは誰にも分からないでしょうと歌う。
♪私たちが生きるこの地上に 愛の天国を築きましょう!
素晴らしいソプラノで、もう一度同じ喜びのフレーズを繰り返す/涙
ハッピーエンドは気分がイイね。