■『テンペスト』(新書館)
W.シェイクスピア/作 エドマンド・デュラック/絵 伊藤杏里/訳
テンペスト(ウィキ参照
エドマンド・デュラック(ウィキ参照
児童書コーナーでずっと前から気になっていた1冊。
この格調高い、絵画ともいえる挿絵は、自分には高尚すぎると思って引き延ばしていたのかも。
オペラにハマっていた時に、今作のDVDもあったような?
シェイクスピアの最後の作品と知ってビックリ。
もう冒頭の入り方からして面白い。大好きなJ.ヴェルヌみたい。
船が嵐で難破して、たどり着いた楽園は、かつての敵同士で、
主人公のプロスペローが魔法で嵐を起こしたって/驚
映画『プロスペローの本』(1991)は観た。
デザイナーが『ベイビー・オブ・マコン』『プロスペローの本』『コックと泥棒とその愛人』と
同スタッフってことで、濃かった記憶がある。
歴史劇は、読む時、とにかく登場人物が多いし、複雑怪奇に入り組んでて、
「コレ、誰だっけ?」と読んだそばから、最初の「登場人物リスト」を何度も見返さないと分からなくなる
見事なファンタジーで、今度はオペラで観てみたい。
【内容抜粋メモ】
はじめに~あらしのあとの不思議な静けさ 内容抜粋メモ
今作は、シェイクスピア最後の作品と言われている。
3つの世界に描かれていて、
1.プロスペローの理想郷の島
2.ナポリ王たちに代表される欲望に満ちた現実の世界
3.理想郷で育ちながら、現実の世界に憧れるミランダと、逆の王子フェルディナンドとの恋で示唆される新しい希望の世界
復讐の心を慈悲に変えるというのは、シェイクスピアの晩年の作品に一貫したテーマだが、
今作では嵐の後の静けさのような不気味な余韻が残る。
プロスペロー同様、シェイクスピアも普通の人間として故郷ストラットフォード・オン・エヴォンに戻ったのは1611年。
そして、今作をそのまま体現したのが、黄金期挿絵画家のデュラック。
シェイクスピアとデュラックの才能は、私たちを日常と非日常とがモザイクのように入り組む世界に誘ってくれる。
登場人物
アロンゾー:ナポリ王
フェルディナンド:王の息子
ゴンザーロー:ナポリ王の顧問官
セバスチャン:王の弟
ステファノー:執事
トリンキュロー:道化師
プロスペロー:正統のミラノ公
ミランダ:プロスペローの娘
アントーニオ:ミラノ大公、プロスペローの弟
キャリバン:島に住む怪獣
エアリエル:空気の精
第1章 ミラノ大公の数奇なる運命
ナポリ王らの乗る立派な船が大嵐に見舞われ、無人島にたどり着く。
この始まり方ってヴェルヌっぽくて好き
乗っていた者らは分かれて上陸し、フシギなことに、命はもちろん、船も、服も一切無事。
実は、嵐はプロスペローの偉大なる魔術の力と、彼の僕である妖精エアリエルの仕業だった。
プロスペローは、遠い昔、魔術に夢中になるあまり国事が疎かになった隙に、
ナポリ王と弟に謀られ、弟に国をとられ、3歳にもならない愛娘・ミランダとともに海に流されたのだった。
プロスペローは、新たな任務をエアリエルに課すと、愚痴をこぼす。
そこで、どんな地獄からエアリエルを救ってやったかを改めて聞かせて思い出させる。
行き着いた島には、魔女のシコラコスと、奇体な息子キャリバンが住んでいた。
魔女の忌まわしい仕事に耐えられず拒んだために、エアリエルを松の木の中に12年間も閉じ込めた。
そこから出す術も分からないまま、魔女は亡くなり、キャリバンだけが野生のように暮らしていた。
エアリエルは、当時を思い出して慄き、主人の仕事を風のごとく完璧にこなす。
キャリバンは、プロスペローらが流れ着いた時、言葉を教わり、清水の湧く場所など、島のことを全部教えた。
しかし、その恩を忘れて、プロスペローを憎んでいる。
12年経ち、ついに復讐の時がやって来た。
プロスペローは、まず、ナポリの王子フェルディナンドと、娘ミランダを引き合わせ恋をさせる。
第2章 魔の島を彷徨うナポリ王の一行
ナポリ王は息子は海の藻屑となったのではと嘆くが、アントーニオは、セバスチャンとともに
今こそ王を殺して、国を治めるチャンスだと策略をめぐらす。
王に忠実なゴンザーローが話す、理想郷は素晴らしい一節。
「陛下、もし私がこの島を開墾いたしますれば、その国はすべてあべこべにしたいと思います。
取引はいっさい認めず、役職も置かず、学問を広めず、貧富の差をなくし、奉公を認めず、
契約、相続、境界、田畑、葡萄畑をなくし、金属、穀物、酒、油などの使用を禁じ、職業は消滅、
男たちはみな遊んで暮らし、もちろん女とて同じこと、純真無垢に暮らします。
その上、君主権というものが存在せず、あらゆるものを自然が恵んでくれます。
人間が汗水たらして働くことはないのです。
ですから反乱も、強盗もなく、剣も槍も短刀も銃もおよそ武器と名のつくものは必要がなく、
大いなる自然がおのずから豊饒の五穀を実らせ、紅顔、無私、人情あふれ、困厄なき我が民を養ってくれるでしょう」
(教育がないのはちょっと・・・だけど、これが晩年のシェイクスピア自身がたどり着いた理想郷。私も共感
王とゴンザーローは、エアリエルの音楽で途端に眠ってしまう。
「眠気はめったに悲しみを訪れてはくれませぬ。が、訪れれば慰み手にもなりましょう」
眠った2人を亡き者にしようと、アントーニオと、セバスチャンが迫る。
一方、ステファノー、トリンキュローは、キャリバンと出会って驚く。
キャリバンは、酒が大好きな執事ステファノーを崇め、プロスペローを殺してくれと頼む。
トリンキュロー:
「イギリスならこの化け物で一財産作れます。なにしろ妙な獣さえ持って行きゃあ、一財産作れる国でありますですから。
足の悪い乞食にゃあビタ一文出しゃしないが、死んだインデアンを見るためにゃあ、その十倍だって出そうという連中が、うじゃうじゃいるですから」
(道化だけに面白い喋り方に訳しているw
※「窮すれば変な奴ともともに寝る」というのはのちに諺になった名文句。
※「我輩は、長い匙など持ってやしねえからな」というステファノーのセリフは、
悪魔と食事するには長い匙が必要(ずるい相手には知恵がいる、という諺)の意味。
第3章 永遠の愛を誓う王子と公女
王子と公女はひと目で恋の虜となるが、簡単に渡してしまうと失敗すると、
プロスペローは、青年にわざと冷たくあたり、王子に屈辱的な丸太運びをさせて、その心を試す。
「骨の折れる遊びごとが時にはある。でも、喜びがその苦労を差し引いてくれる。
あの姫のためと思えば死んだ心が蘇り、辛さを喜びに変えてくれる」
ミランダ(ラテン語で“素晴らしい”の意)もまた、青年のために私が丸太を運ぶと言い出す。
フェルディナンド:
「今日まで数多くの貴婦人がこの眼を魅きつけ、数多くの美しい声がこの耳を魅きつけました。
また、それぞれの美点のゆえにいくたりかの婦人を好ましく思ったこともありました。
しかし、どの人にもなんらかの瑕疵(欠点)があり、せっかくの美点を帳消しにしてしまう、
でも、あなたは・・・非のうちどころのない、この世に類いない人。
神の創造なさったもののなかの最上のものだけでつくられている」
ミランダ:
「私は女の人を一人も知りませんの。女の顔といえば、ただ鏡にうつる私の顔だけしか、その記憶にないのです」
ミランダは妻にしてほしいと勇気を出して告白する。その言葉も激しい。
「あなたにお気持ちがないのなら、処女のまま死ぬまで、あなたの侍女になりたいのです。
それも許されないのなら、あなたの婢女(はしため。召し使い)になりたいのです」
プロスペローは2人の愛が本物と分かって安心し、わざと冷たくしていたことを王子に話す。
*
一方、キャリバンはプロスペローが昼寝している時に殺してくれと、2人を沼やら越えて連れてくる。
「奴の魔法の本を先に取ってしまえば、思う壺。
奴の娘は別嬪だ。殿さんよ、あんたの寝床にゃぴったりさ。いい血筋を残すだろう」
*
悲しみや空腹、絶望と疲れでボロボロになった王らは、フシギな妖精らの運ぶ宴の食卓を見て驚きつつも喜ぶ。
ゴンザーローが王を励ます。
「私どもが子どもの頃、頭が胸についている人間がいるとか聞かされたものでしたが、誰が信じたでしょうか。
それが当節、無事に還れば五倍という賭けをした冒険家どもが、立派な証拠を持ち帰るではありませぬか」
「では食べるとするか。最期の食事になろうと構いはせぬ。我が最良の日々は、過ぎ去ってしまったのだから」
食事をしようとすると、女面鳥獣(ハーピー)に化けたエアリエルらがご馳走を消し去って苦しめる。
エアリエルは、アロンゾー、セバスチャン、アントーニオだけに囁く。
「おまえたち、3人の罪人よ。お前たちは人間の中に住むには値しない者たちだ。
気が狂うがよい。おまえたち3人が、罪もなきプロスペローと幼子とをミラノから追い出して海に流した。
その神罰を免れる道はただ1つ。心からの悔恨と、汚れなき日々を送ることにあるのだ」
第4章 老魔術師と妖精がおこす奇蹟
プロスペローは王子に娘との結婚のために諭す。
「私が君に与えたものは、私の命の三分の一にあたるもの、いや、そのためにこそ私が生きてきたもの。
もし、聖なる婚礼の式が行われる前に、娘の処女の帯を紐解くことがあれば、
この結婚は不毛の憎しみ、軽蔑のまなざし、絶えざる不和が新床にまきちらし、憎みあうようになるだろう」
王子は心底から約束する。
そこでエアリエルに、すべての妖精たちを今すぐ呼ぶよう言いつけ、素晴らしい仮面劇が始まる。
虹の女神イリス、豊饒の女神シアリーズ、ジューノー(ジュピターの妻で最高の女神。女性と結婚生活の保護者)、
軍神マルス寵愛の情熱の女神ヴィーナスは淫らな術をかけようとしたが、2人の誓いが固いため、空しく帰途につく。
(ギリシア神話と名前が違えど、関係性や物語は同じなのがフシギ。
しかも、愛の神のヴィーナスと、その息子キューピッドがなんだかイジワルみたいだし、
キューピッドが盲目だって初めて知った/驚
このショーに見とれていると、急に怒りを露わにするプロスペロー。
「キャリバンとその仲間たちが、私の命を狙う時が迫ってきたようだ」
この後のセリフも深い。
「幕は上がった。あの役者たちは妖精で、もう溶けてしまったのだ。淡い大気の中に。
雲にそびえる高い塔も、豪華な宮殿も、荘厳な大寺院も、いや、この地球でさえも、一切のものが、やがて溶けて消えてゆく。
あとには何一つ残りはしない。われわれ人間は夢と同じもので作られている。
そのささやかな一生は、眠りによってその輪を閉じるだけなのだ」
*
とんでもない沼地を胸まで浸かって歩いてきたキャリバン、ステファノー、トリンキュロー。
約束が違うと愚痴り、命の次に大事な酒瓶を沼に落として、取りに行くとい出すステファノー。
トリンキュローは、プロスペローの用意した金ぴか衣装に眼が眩む。
「あたしたちゃ古着にかけちゃ目が利くですよ」と2人で取り合いになる。
第5章 あらしは過ぎ平安と幸福が
王と共の者らは、プロスペローが描いた魔法円の中で身動きが出来ない状態になっていて、
プロスペローが心正しいと呼ぶゴンザーローの嘆きぶりを見れば、可哀想だと思うでしょうというエアリエル。
「空気にほかならぬおまえが、彼らを憐れと思うなら、同じ人間の私が思いやりに乏しいことがあろうか?
復讐にかえて慈悲をほどこすことは、優れた行為だ。
彼らが後悔しているからには、私も怒りを鎮めて、慈悲にむかって漂うことにしよう」
そして、これまで働いてくれた妖精たちに礼を言う。
「私は今日までおまえたちの力を借りて、おまえたち自身の力は弱くとも、恐ろしい雷に焔を与え、
雷神ジョーヴの神木である柏の木を、己の稲妻で引き裂かせた。
だが、この荒々しい魔術の力を、二度と使わぬとここで誓おう。
私の思うところを彼らにし終えたならば、この魔法の杖を折り、地の底深くうずめよう。
そして、この魔法の書を、測量の鉛も届かぬ、海の底深くうずめよう」
「徳高きゴンザーロー、高潔の士よ。あなたの眼にやどる涙に和して、私も同情の雫を落としている」
プロスペローは、魔術の衣を脱ぎ捨て、ミラノ大公の姿で、みなの前に現れる。
これが終われば、自由の身になれるエアリエルが、衣装替えの時に思わず歌うのも心を打つ。
♪蜂といっしょに蜜を吸い 九輪桜の花に寝る
ふくろうの声を夢に聞き こうもりの背に飛び乗って
楽しく夏を追いかける 楽しく楽しく日を送る 枝もたわわな花陰で・・・
「ああ、華奢に美しいエアリエルよ。おまえがいなくなると淋しくなる。だが、必ず自由の身にしてやるぞ」
ゴンザーローは目覚めて、プロスペローを見て驚き、許しを請う。
「ここに公国をお返しし、私の犯した罪をお許しくださることをお願いします」
プロスペローは、セバスチャンとアントーニオには、2人にしか聞こえない声でこう言い聞かせる。
「私がその気になれば反逆の罪を証拠だて、王の怒りを招かせることもできるが、今は何も言うまい。
弟と呼ぶのさえ口の汚れる極悪非道の男。だがその悪業も許してやろう、1つ残らず」
(難破したのがたった3時間前のことって、それもなにかの術!?驚
プロスペローは娘を失ったといったんウソを言ってから、王らに岩屋で無邪気にチェスをする王子とミランダを見せる。
ミランダは、一度にたくさんの人間を見て、純粋に感動する。
「人間のなんと美しいこと! 素晴らしい新しい世界が! このような方々が住んでいるのですね、そこには!」
王が王子の姫になる娘に詫びようとすると、止めるプロスペロー。
「王よ、今はそれまでに。過ぎ去った辛い重荷を、我々の思い出に背負わせることはありますまい」
プロスペローはキャリバンらの呪文も解いてやる。
ゴンザーロー:
「王よ、お気づきであろうか? ご一行のうちでまだ行方の知れぬ者がいる、半端者ぞろいゆえ、お覚えがないかもしれませぬが」てw
ステファノーも悪い人間でないことが分かるセリフ。
「人はみな他人のためにやりくりすべし、自分のことは構うべからず、なぜなら人生運次第とくらあ!
がんばれ、あばずれ怪物、しっかりやんな!」
「これ、岩屋に行かぬか、仲間も一緒に。もし許しを得たければきれいに掃除をすることだな」
(キャリバンだけは島に置いていってしまうのかな? 連れてったよね?
プロスペローは一同を岩屋に案内し、一夜だけ休息することを願う。
「私の身の上を、この島で起きたさまざまの出来事を詳しくお聞かせしたいのです。
そして、その朝には、一同を船に案内し、ともにナポリへ。かの地で、愛し合う2人の婚礼を見て、
それから私はミラノに戻ります。第三の人生はただ墓所のことだけを思って過ごすことでしょう」
プロスペローは大気に向かって別れを告げる。
“エアリエル、私のひな鳥よ 船を守るのが、最後の仕事
それからあとは大空を 自由に飛んで、元気に過ごせ・・・”
**************************
【魔法の終わり 『テンペスト』とデュラックのこと 荒俣宏 内容抜粋メモ】
戯曲『テンペスト』は、あの『真夏の夜の夢』同様、いわくつきの妖精物語だ。
『真夏の夜の夢』から16年後、ともに結婚、魔術、妖精が関係した夢幻劇。
『真夏の夜の夢』が書かれたのは、妖精女王エリザベスの威光が英本土に行き渡っていた。俗に言う「騎士道」の時代。
だが、女王がなくなり、宮廷に出入りしていた魔術師たち(当時は科学も魔術だった)は追い払われ、
各地で王侯の暗殺、謀叛が企てられた。
プロスペローのモデルは、シェイクスピアの同時代人、ジョン・ディー博士と言われる。
女王のあつい相談役だったが、占星学、数秘学、心霊学などにも興味を持ち、天使と話して得た知識を暗号で記録していたとして、
後には「魔法使い」として焼き討ちに遭い、国外追放となった。
ディー博士も航海にとても関心があった。錬金術師でもあったが、それには金が要る(矛盾しているような?w)ので、
金が無尽蔵にある東方の島々までの航路を、天文学と数学で、なんと北極回りの早道を見つけたが、失敗に終わった。
(東方の島々ってジパングのことですかい?
魔法は終わった
プロスペローがいつも自分の死を考えていたように、シェイクスピアも心身ともに疲れていた。
1616年、『テンペスト』が上演されてから、わずか5年後にシェイクスピアは亡くなる。
シェイクスピア時代の終幕を宣言するために書いた本作は、1623年に出たシェイクスピア戯曲集
俗に『ファースト・フォリオ』の最初に収められた。
ふつうは、書かれた年代順に選ぶものを、『テンペスト』が必ず最初に出てくる。
なぜなら、『テンペスト』は、それほどよく仕上がった傑作だから。
ラッカムと肩を並べる巨匠絵師、デュラックの素晴らしい絵
『真夏の夜の夢』を描いた絵師としては、アーサー・ラッカムに譲ってもいいが、
『テンペスト』の最高は、ここに収められたデュラックの39枚におよぶ挿絵。
デュラックは、1882年生まれ。13、14歳で出世作『アラビアン・ナイト』を出版して一躍挿絵画の人気者になった。
日本名も持っていて「寿楽」という/驚
その魅力は、色彩と、正確なデッサン。
彼は後にその技術を買われて、切手、ポスターの図案も手がける。
**************************
アーサー・ラッカムの本:
『真夏の夜の夢』
『ニーベルンゲンの指輪1~4』(これは観てみたいなあ!
『不思議の国のアリス』(これはジョン・テニエルが最高でしょう!
**************************
気になる言葉
むべなるかな=もっともなことだなあ。
簒奪(さんだつ)=本来君主の地位の継承資格がない者が、君主の地位を奪取すること。
紅顔=年が若く血色のよい顔。
W.シェイクスピア/作 エドマンド・デュラック/絵 伊藤杏里/訳
テンペスト(ウィキ参照
エドマンド・デュラック(ウィキ参照
児童書コーナーでずっと前から気になっていた1冊。
この格調高い、絵画ともいえる挿絵は、自分には高尚すぎると思って引き延ばしていたのかも。
オペラにハマっていた時に、今作のDVDもあったような?
シェイクスピアの最後の作品と知ってビックリ。
もう冒頭の入り方からして面白い。大好きなJ.ヴェルヌみたい。
船が嵐で難破して、たどり着いた楽園は、かつての敵同士で、
主人公のプロスペローが魔法で嵐を起こしたって/驚
映画『プロスペローの本』(1991)は観た。
デザイナーが『ベイビー・オブ・マコン』『プロスペローの本』『コックと泥棒とその愛人』と
同スタッフってことで、濃かった記憶がある。
歴史劇は、読む時、とにかく登場人物が多いし、複雑怪奇に入り組んでて、
「コレ、誰だっけ?」と読んだそばから、最初の「登場人物リスト」を何度も見返さないと分からなくなる
見事なファンタジーで、今度はオペラで観てみたい。
【内容抜粋メモ】
はじめに~あらしのあとの不思議な静けさ 内容抜粋メモ
今作は、シェイクスピア最後の作品と言われている。
3つの世界に描かれていて、
1.プロスペローの理想郷の島
2.ナポリ王たちに代表される欲望に満ちた現実の世界
3.理想郷で育ちながら、現実の世界に憧れるミランダと、逆の王子フェルディナンドとの恋で示唆される新しい希望の世界
復讐の心を慈悲に変えるというのは、シェイクスピアの晩年の作品に一貫したテーマだが、
今作では嵐の後の静けさのような不気味な余韻が残る。
プロスペロー同様、シェイクスピアも普通の人間として故郷ストラットフォード・オン・エヴォンに戻ったのは1611年。
そして、今作をそのまま体現したのが、黄金期挿絵画家のデュラック。
シェイクスピアとデュラックの才能は、私たちを日常と非日常とがモザイクのように入り組む世界に誘ってくれる。
登場人物
アロンゾー:ナポリ王
フェルディナンド:王の息子
ゴンザーロー:ナポリ王の顧問官
セバスチャン:王の弟
ステファノー:執事
トリンキュロー:道化師
プロスペロー:正統のミラノ公
ミランダ:プロスペローの娘
アントーニオ:ミラノ大公、プロスペローの弟
キャリバン:島に住む怪獣
エアリエル:空気の精
第1章 ミラノ大公の数奇なる運命
ナポリ王らの乗る立派な船が大嵐に見舞われ、無人島にたどり着く。
この始まり方ってヴェルヌっぽくて好き
乗っていた者らは分かれて上陸し、フシギなことに、命はもちろん、船も、服も一切無事。
実は、嵐はプロスペローの偉大なる魔術の力と、彼の僕である妖精エアリエルの仕業だった。
プロスペローは、遠い昔、魔術に夢中になるあまり国事が疎かになった隙に、
ナポリ王と弟に謀られ、弟に国をとられ、3歳にもならない愛娘・ミランダとともに海に流されたのだった。
プロスペローは、新たな任務をエアリエルに課すと、愚痴をこぼす。
そこで、どんな地獄からエアリエルを救ってやったかを改めて聞かせて思い出させる。
行き着いた島には、魔女のシコラコスと、奇体な息子キャリバンが住んでいた。
魔女の忌まわしい仕事に耐えられず拒んだために、エアリエルを松の木の中に12年間も閉じ込めた。
そこから出す術も分からないまま、魔女は亡くなり、キャリバンだけが野生のように暮らしていた。
エアリエルは、当時を思い出して慄き、主人の仕事を風のごとく完璧にこなす。
キャリバンは、プロスペローらが流れ着いた時、言葉を教わり、清水の湧く場所など、島のことを全部教えた。
しかし、その恩を忘れて、プロスペローを憎んでいる。
12年経ち、ついに復讐の時がやって来た。
プロスペローは、まず、ナポリの王子フェルディナンドと、娘ミランダを引き合わせ恋をさせる。
第2章 魔の島を彷徨うナポリ王の一行
ナポリ王は息子は海の藻屑となったのではと嘆くが、アントーニオは、セバスチャンとともに
今こそ王を殺して、国を治めるチャンスだと策略をめぐらす。
王に忠実なゴンザーローが話す、理想郷は素晴らしい一節。
「陛下、もし私がこの島を開墾いたしますれば、その国はすべてあべこべにしたいと思います。
取引はいっさい認めず、役職も置かず、学問を広めず、貧富の差をなくし、奉公を認めず、
契約、相続、境界、田畑、葡萄畑をなくし、金属、穀物、酒、油などの使用を禁じ、職業は消滅、
男たちはみな遊んで暮らし、もちろん女とて同じこと、純真無垢に暮らします。
その上、君主権というものが存在せず、あらゆるものを自然が恵んでくれます。
人間が汗水たらして働くことはないのです。
ですから反乱も、強盗もなく、剣も槍も短刀も銃もおよそ武器と名のつくものは必要がなく、
大いなる自然がおのずから豊饒の五穀を実らせ、紅顔、無私、人情あふれ、困厄なき我が民を養ってくれるでしょう」
(教育がないのはちょっと・・・だけど、これが晩年のシェイクスピア自身がたどり着いた理想郷。私も共感
王とゴンザーローは、エアリエルの音楽で途端に眠ってしまう。
「眠気はめったに悲しみを訪れてはくれませぬ。が、訪れれば慰み手にもなりましょう」
眠った2人を亡き者にしようと、アントーニオと、セバスチャンが迫る。
一方、ステファノー、トリンキュローは、キャリバンと出会って驚く。
キャリバンは、酒が大好きな執事ステファノーを崇め、プロスペローを殺してくれと頼む。
トリンキュロー:
「イギリスならこの化け物で一財産作れます。なにしろ妙な獣さえ持って行きゃあ、一財産作れる国でありますですから。
足の悪い乞食にゃあビタ一文出しゃしないが、死んだインデアンを見るためにゃあ、その十倍だって出そうという連中が、うじゃうじゃいるですから」
(道化だけに面白い喋り方に訳しているw
※「窮すれば変な奴ともともに寝る」というのはのちに諺になった名文句。
※「我輩は、長い匙など持ってやしねえからな」というステファノーのセリフは、
悪魔と食事するには長い匙が必要(ずるい相手には知恵がいる、という諺)の意味。
第3章 永遠の愛を誓う王子と公女
王子と公女はひと目で恋の虜となるが、簡単に渡してしまうと失敗すると、
プロスペローは、青年にわざと冷たくあたり、王子に屈辱的な丸太運びをさせて、その心を試す。
「骨の折れる遊びごとが時にはある。でも、喜びがその苦労を差し引いてくれる。
あの姫のためと思えば死んだ心が蘇り、辛さを喜びに変えてくれる」
ミランダ(ラテン語で“素晴らしい”の意)もまた、青年のために私が丸太を運ぶと言い出す。
フェルディナンド:
「今日まで数多くの貴婦人がこの眼を魅きつけ、数多くの美しい声がこの耳を魅きつけました。
また、それぞれの美点のゆえにいくたりかの婦人を好ましく思ったこともありました。
しかし、どの人にもなんらかの瑕疵(欠点)があり、せっかくの美点を帳消しにしてしまう、
でも、あなたは・・・非のうちどころのない、この世に類いない人。
神の創造なさったもののなかの最上のものだけでつくられている」
ミランダ:
「私は女の人を一人も知りませんの。女の顔といえば、ただ鏡にうつる私の顔だけしか、その記憶にないのです」
ミランダは妻にしてほしいと勇気を出して告白する。その言葉も激しい。
「あなたにお気持ちがないのなら、処女のまま死ぬまで、あなたの侍女になりたいのです。
それも許されないのなら、あなたの婢女(はしため。召し使い)になりたいのです」
プロスペローは2人の愛が本物と分かって安心し、わざと冷たくしていたことを王子に話す。
*
一方、キャリバンはプロスペローが昼寝している時に殺してくれと、2人を沼やら越えて連れてくる。
「奴の魔法の本を先に取ってしまえば、思う壺。
奴の娘は別嬪だ。殿さんよ、あんたの寝床にゃぴったりさ。いい血筋を残すだろう」
*
悲しみや空腹、絶望と疲れでボロボロになった王らは、フシギな妖精らの運ぶ宴の食卓を見て驚きつつも喜ぶ。
ゴンザーローが王を励ます。
「私どもが子どもの頃、頭が胸についている人間がいるとか聞かされたものでしたが、誰が信じたでしょうか。
それが当節、無事に還れば五倍という賭けをした冒険家どもが、立派な証拠を持ち帰るではありませぬか」
「では食べるとするか。最期の食事になろうと構いはせぬ。我が最良の日々は、過ぎ去ってしまったのだから」
食事をしようとすると、女面鳥獣(ハーピー)に化けたエアリエルらがご馳走を消し去って苦しめる。
エアリエルは、アロンゾー、セバスチャン、アントーニオだけに囁く。
「おまえたち、3人の罪人よ。お前たちは人間の中に住むには値しない者たちだ。
気が狂うがよい。おまえたち3人が、罪もなきプロスペローと幼子とをミラノから追い出して海に流した。
その神罰を免れる道はただ1つ。心からの悔恨と、汚れなき日々を送ることにあるのだ」
第4章 老魔術師と妖精がおこす奇蹟
プロスペローは王子に娘との結婚のために諭す。
「私が君に与えたものは、私の命の三分の一にあたるもの、いや、そのためにこそ私が生きてきたもの。
もし、聖なる婚礼の式が行われる前に、娘の処女の帯を紐解くことがあれば、
この結婚は不毛の憎しみ、軽蔑のまなざし、絶えざる不和が新床にまきちらし、憎みあうようになるだろう」
王子は心底から約束する。
そこでエアリエルに、すべての妖精たちを今すぐ呼ぶよう言いつけ、素晴らしい仮面劇が始まる。
虹の女神イリス、豊饒の女神シアリーズ、ジューノー(ジュピターの妻で最高の女神。女性と結婚生活の保護者)、
軍神マルス寵愛の情熱の女神ヴィーナスは淫らな術をかけようとしたが、2人の誓いが固いため、空しく帰途につく。
(ギリシア神話と名前が違えど、関係性や物語は同じなのがフシギ。
しかも、愛の神のヴィーナスと、その息子キューピッドがなんだかイジワルみたいだし、
キューピッドが盲目だって初めて知った/驚
このショーに見とれていると、急に怒りを露わにするプロスペロー。
「キャリバンとその仲間たちが、私の命を狙う時が迫ってきたようだ」
この後のセリフも深い。
「幕は上がった。あの役者たちは妖精で、もう溶けてしまったのだ。淡い大気の中に。
雲にそびえる高い塔も、豪華な宮殿も、荘厳な大寺院も、いや、この地球でさえも、一切のものが、やがて溶けて消えてゆく。
あとには何一つ残りはしない。われわれ人間は夢と同じもので作られている。
そのささやかな一生は、眠りによってその輪を閉じるだけなのだ」
*
とんでもない沼地を胸まで浸かって歩いてきたキャリバン、ステファノー、トリンキュロー。
約束が違うと愚痴り、命の次に大事な酒瓶を沼に落として、取りに行くとい出すステファノー。
トリンキュローは、プロスペローの用意した金ぴか衣装に眼が眩む。
「あたしたちゃ古着にかけちゃ目が利くですよ」と2人で取り合いになる。
第5章 あらしは過ぎ平安と幸福が
王と共の者らは、プロスペローが描いた魔法円の中で身動きが出来ない状態になっていて、
プロスペローが心正しいと呼ぶゴンザーローの嘆きぶりを見れば、可哀想だと思うでしょうというエアリエル。
「空気にほかならぬおまえが、彼らを憐れと思うなら、同じ人間の私が思いやりに乏しいことがあろうか?
復讐にかえて慈悲をほどこすことは、優れた行為だ。
彼らが後悔しているからには、私も怒りを鎮めて、慈悲にむかって漂うことにしよう」
そして、これまで働いてくれた妖精たちに礼を言う。
「私は今日までおまえたちの力を借りて、おまえたち自身の力は弱くとも、恐ろしい雷に焔を与え、
雷神ジョーヴの神木である柏の木を、己の稲妻で引き裂かせた。
だが、この荒々しい魔術の力を、二度と使わぬとここで誓おう。
私の思うところを彼らにし終えたならば、この魔法の杖を折り、地の底深くうずめよう。
そして、この魔法の書を、測量の鉛も届かぬ、海の底深くうずめよう」
「徳高きゴンザーロー、高潔の士よ。あなたの眼にやどる涙に和して、私も同情の雫を落としている」
プロスペローは、魔術の衣を脱ぎ捨て、ミラノ大公の姿で、みなの前に現れる。
これが終われば、自由の身になれるエアリエルが、衣装替えの時に思わず歌うのも心を打つ。
♪蜂といっしょに蜜を吸い 九輪桜の花に寝る
ふくろうの声を夢に聞き こうもりの背に飛び乗って
楽しく夏を追いかける 楽しく楽しく日を送る 枝もたわわな花陰で・・・
「ああ、華奢に美しいエアリエルよ。おまえがいなくなると淋しくなる。だが、必ず自由の身にしてやるぞ」
ゴンザーローは目覚めて、プロスペローを見て驚き、許しを請う。
「ここに公国をお返しし、私の犯した罪をお許しくださることをお願いします」
プロスペローは、セバスチャンとアントーニオには、2人にしか聞こえない声でこう言い聞かせる。
「私がその気になれば反逆の罪を証拠だて、王の怒りを招かせることもできるが、今は何も言うまい。
弟と呼ぶのさえ口の汚れる極悪非道の男。だがその悪業も許してやろう、1つ残らず」
(難破したのがたった3時間前のことって、それもなにかの術!?驚
プロスペローは娘を失ったといったんウソを言ってから、王らに岩屋で無邪気にチェスをする王子とミランダを見せる。
ミランダは、一度にたくさんの人間を見て、純粋に感動する。
「人間のなんと美しいこと! 素晴らしい新しい世界が! このような方々が住んでいるのですね、そこには!」
王が王子の姫になる娘に詫びようとすると、止めるプロスペロー。
「王よ、今はそれまでに。過ぎ去った辛い重荷を、我々の思い出に背負わせることはありますまい」
プロスペローはキャリバンらの呪文も解いてやる。
ゴンザーロー:
「王よ、お気づきであろうか? ご一行のうちでまだ行方の知れぬ者がいる、半端者ぞろいゆえ、お覚えがないかもしれませぬが」てw
ステファノーも悪い人間でないことが分かるセリフ。
「人はみな他人のためにやりくりすべし、自分のことは構うべからず、なぜなら人生運次第とくらあ!
がんばれ、あばずれ怪物、しっかりやんな!」
「これ、岩屋に行かぬか、仲間も一緒に。もし許しを得たければきれいに掃除をすることだな」
(キャリバンだけは島に置いていってしまうのかな? 連れてったよね?
プロスペローは一同を岩屋に案内し、一夜だけ休息することを願う。
「私の身の上を、この島で起きたさまざまの出来事を詳しくお聞かせしたいのです。
そして、その朝には、一同を船に案内し、ともにナポリへ。かの地で、愛し合う2人の婚礼を見て、
それから私はミラノに戻ります。第三の人生はただ墓所のことだけを思って過ごすことでしょう」
プロスペローは大気に向かって別れを告げる。
“エアリエル、私のひな鳥よ 船を守るのが、最後の仕事
それからあとは大空を 自由に飛んで、元気に過ごせ・・・”
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【魔法の終わり 『テンペスト』とデュラックのこと 荒俣宏 内容抜粋メモ】
戯曲『テンペスト』は、あの『真夏の夜の夢』同様、いわくつきの妖精物語だ。
『真夏の夜の夢』から16年後、ともに結婚、魔術、妖精が関係した夢幻劇。
『真夏の夜の夢』が書かれたのは、妖精女王エリザベスの威光が英本土に行き渡っていた。俗に言う「騎士道」の時代。
だが、女王がなくなり、宮廷に出入りしていた魔術師たち(当時は科学も魔術だった)は追い払われ、
各地で王侯の暗殺、謀叛が企てられた。
プロスペローのモデルは、シェイクスピアの同時代人、ジョン・ディー博士と言われる。
女王のあつい相談役だったが、占星学、数秘学、心霊学などにも興味を持ち、天使と話して得た知識を暗号で記録していたとして、
後には「魔法使い」として焼き討ちに遭い、国外追放となった。
ディー博士も航海にとても関心があった。錬金術師でもあったが、それには金が要る(矛盾しているような?w)ので、
金が無尽蔵にある東方の島々までの航路を、天文学と数学で、なんと北極回りの早道を見つけたが、失敗に終わった。
(東方の島々ってジパングのことですかい?
魔法は終わった
プロスペローがいつも自分の死を考えていたように、シェイクスピアも心身ともに疲れていた。
1616年、『テンペスト』が上演されてから、わずか5年後にシェイクスピアは亡くなる。
シェイクスピア時代の終幕を宣言するために書いた本作は、1623年に出たシェイクスピア戯曲集
俗に『ファースト・フォリオ』の最初に収められた。
ふつうは、書かれた年代順に選ぶものを、『テンペスト』が必ず最初に出てくる。
なぜなら、『テンペスト』は、それほどよく仕上がった傑作だから。
ラッカムと肩を並べる巨匠絵師、デュラックの素晴らしい絵
『真夏の夜の夢』を描いた絵師としては、アーサー・ラッカムに譲ってもいいが、
『テンペスト』の最高は、ここに収められたデュラックの39枚におよぶ挿絵。
デュラックは、1882年生まれ。13、14歳で出世作『アラビアン・ナイト』を出版して一躍挿絵画の人気者になった。
日本名も持っていて「寿楽」という/驚
その魅力は、色彩と、正確なデッサン。
彼は後にその技術を買われて、切手、ポスターの図案も手がける。
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アーサー・ラッカムの本:
『真夏の夜の夢』
『ニーベルンゲンの指輪1~4』(これは観てみたいなあ!
『不思議の国のアリス』(これはジョン・テニエルが最高でしょう!
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気になる言葉
むべなるかな=もっともなことだなあ。
簒奪(さんだつ)=本来君主の地位の継承資格がない者が、君主の地位を奪取すること。
紅顔=年が若く血色のよい顔。