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サリンジャー選集3『倒錯の森』(荒地出版社)

サリンジャー選集3『倒錯の森』(荒地出版社)
J.D.サリンジャー/著 刈田元司、渥美昭夫/訳

「作家別」カテゴリーに追加しました。

表紙の元になった顔写真を発見。
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選集3も、選集2同様に繁尾久氏のコレクションによる。


【内容抜粋メモ】

「マディソン街のはずれの小さな反抗」
ホールデン・モリシー・コールフィールドの話!
ベンシー男子予備校に通い、メアリ・A・ウッドラフ女子高のサリー・ヘイズが好き。

アンドーヴァーのジョージ・ハリソンとサリーが再会し、ホールデンはくさくさする。

「ほんとに厭だなあ。学校だけじゃない。なにもかもだ。
 ねえ、サリー、こんなことやめちまって、ドライブに行かないか?
 キャンプ小屋かなんかに泊まって、仕事を見つけて、小川のほとりなんかに住もうよ」
「そんなこと、できるわけないでしょ?」

ホールデンはしこたま酔って、深夜に何度もサリーに電話Image may be NSFW.
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した挙句、切られる。

ピアノ弾き「もう家へ帰んなよ、坊や」
ホールデン「いやだよ。いやだね」

ホールデンは、数回まばたきをして涙をはらった。


「大戦直前のウェストの細い女」
具合の悪いバーバラを、船のレクリエイション係のレイ・キンスラが介抱してやる。

ダイアン・ウッドラフと主人のフィールディングが声をかける。
ウッドラフ夫人「私たちまもなく戦争に巻き込まれるとお思いになる?」
レイ「僕はこの航海が終わったら入隊しなきゃならないんです」

一行は、レイが勧めた観光客目当てのヴィーヴァ・ハバナに行った。
レイ「僕は(航海は)まだこれで2度目なんです。大学を出たばかりで、少し楽しい思いをしておいたほうがいいと思いましてね」
バーバラ「私、しばらく病気をして、フィアンセが少し休むようにと言って、彼のお母さんが航海に連れてきてくれましたの」

バーバラの父は昨年、脳溢血で亡くなり、兄は彼女の旅行直前に交通事故に遭ったImage may be NSFW.
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フィールディングは、妻には内緒だが、自分たちが留守のうちに、息子は軍隊に入ってるだろうと明かす。
バーバラのフィアンセのカールも海軍に入隊する。

夫人「ここは人生の楽しみがすべて終わって、お金ぐらいしか残っていない人たちの来る所よ」と2人だけで散歩に行かせる。

「私、1941年って大嫌い」みんなに微笑みかけながら、夫人は涙を流す。

「そこらじゅう軍隊ばかりで、男の子たちを連れていこうとするし、
 女の子や母親は郵便だけを待ち暮らす日がくることを知っているし、
 残るのはどこにも行く必要のない年寄りのにやにやした給仕頭ばかり。
 昔とは全然違ってきちゃったのよ。すっかり駄目な時代になってしまった」

レイとバーバラはたっぷり2時間キスをした。

「バーバラ、僕、本気なんだけど、どうだろう、僕たち結婚しないか?」
「分からないわ。彼のお母さまになんて言ったらいいの? 私、馬鹿だと思われてんのよ」
「今は酷い時代なんだ。だからさ、2人の人間が愛し合ったら、互いに離れないようにしてなきゃいけないんだ」

夫人「神さま! 子どもたちがみんな、この時代にあって頭を働かせてくれますように」

バーバラが船室に戻ると、カールの母、オーデンハーン夫人はまだ起きていた。
バーバラはだしぬけに「私、結婚するのをやめたいと思いますの」と言った。「結婚したくありませんの」

夫人は、バーバラとレイのことを考えて
「間違いは犯す前に正すのが一番いいわ。カールはきっと非難しないと思うわ」

バーバラはまた甲板に出て行った。「さようなら」
バーバラは、彼女の少女時代の最後の数分間をちょうど通り抜けようとしている現在、
聞こえてくる複雑な伴奏者にすっかり心を奪われているのだった。


「ある少女の思い出」
1936年、大学1年、私は5課目すべて落としてしまった。
NYの自宅に帰り、父はふいに会社に役立つためにヨーロッパで外国語を2つばかり勉強してこいと言った。

まず、ウィーンに行き、3時間のドイツ語のレッスンを受け、5ヶ月過ごした。

おそらくすべての男性にとって、世界中のいずれか1つの都会が、遅かれ早かれ、
1人の女性のイメージに溶け込んでしまうという経験があるにちがいない。

16歳のリアは、ウィーンに住むユダヤ系の娘で、アパートの階下に住んでいた。
初めて会った時、女家主からもらったレコード、ドロシー・ラモーア♪月光と影、コニー・ボズウェル♪どこにいるの?がかかっていた。

リアの英語は、私のドイツ語同様、欠点だらけだったが、私たちは必ず相手の言葉で喋った。
リアは週5日、父の化粧品工場で働いていた。

4ヶ月ほど、週に2、3回、夜1時間ほど彼女と話す日々が続いた後、
突然、ポーランド人のフィアンセがいることを知って動揺する。

私はリアに尋ねた。「結婚はお好きですか?」「私、分かりません」

私が2つめのヨーロッパ語を勉強するため、パリに行く日、リアはフィアンセの家族を訪問していて別れを告げられなかった。
その代わり、手紙を書き置きし、その下書きを今でも持っている。「小説『風と共に去りぬ』をお送りしましょう」など。

1937年。アメリカの大学に帰った私のもとに、結婚したリアから小包と手紙が届いたImage may be NSFW.
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ヒットラーの軍隊がウィーンに侵攻し、1940年、リアと学校が同じだった女性に会ったが、同名の別人だった。
ヨーロッパの戦争後、私は軍事関係でウィーンに行った。人々のうち2人はリアは死んだと言った。

以前、住んでいたアパートは、左官級の将校の宿舎となっていて、「ほんの1分間、2階に上がらせてくれ」と何度も頼んだが断られた。

「一体、上でどんないいことがあるんだい?」
「あすこに住んでいた女の子を知ってたのでね」
「ほう、今どこにいるんだ?」
「死んじゃったよ。家族と一緒に火葬炉で焼かれたらしな」

曹長は1分だけ上がるのを見逃してくれたが、その部屋にはどれ1つ1936年にないものばかりだった。



「ブルー・メロディ」
1944年、真冬。私はルクセンブルクからドイツの前線に向かっていた。
負傷して、表向き全快したことになっている歩兵らは、ある歩兵師団のライフル中隊に編入されるべく、輸送の途中だった。
私はラドフォードという青年と出逢い、ある物語を聞く。

これは我が国のある地域に対する手厳しい批判ではない。
自家製のアップルパイや、ドジャーズ、ラックス化粧石けん提供のラジオ劇場などのために闘った祖国に関するほんの単純な物語だ。

ラドフォードは、ペギーという女の子が首筋の窪みにチューインガムを挟むところを見てから夢中になった。
彼はペギーをウィラード通りでピアノを弾いている黒人ブラック・チャールズに紹介した。
そこは、世の親たちが、自家用車の窓から覗きながら、不潔そうだと決めてかかる典型的なレストランだった。

ペギーはチャールズの演奏の間じゅう、自分の膝に口を強く押し付けて歯型を残す癖も好きだった。

ある時、チャールズの妹リーダ・ルイーズに紹介された。彼女は店で毎晩歌うことになった。
♪Nobody good around など。1つ1つの音が爆発するようだった。名状しがたい声だとラドフォードは言った。

6ヶ月、毎晩ぶっ続けに歌って、ルイス・ハロルド・メドウズが彼女をメンフィスに連れて行った。
リーダがエージャーズバーグにいた時、ヴァイオレット・ヘンリー、アリス・メイ・スターバック、プリシラ・ジョーダンらブルース歌手は退屈とみなされた。

ある晩、リーダに♪ジャクソンヴィルへの鈍行列車 をリクエストすると
「あんた、その歌どこで聞いたの? 黒人だった? エンディコット・ウィルソンって名前じゃなかった? 今NYにいるの?」などと聞いた。

リーダは「ジャズの大殿堂」で4ヶ月歌った。レコード会社に追われ、1ヵ月の間に18面吹き込んだ。
♪スマイル・タウン ♪褐色の少女のブルース など。ジャズ関係者は、一度は聴きに来た。

ラッセル・ホプトン、ジョン・レーモンド・ジュール、イジー・フェルド、ルイ・アームストロング(!)、
マッチ・マックニール、フレディ・ジェンクス、ジャック・ティーガーデン、バーニー・ゴールドとモーティ・ゴールド、
ウィリー・フックス、グッドマン、バイダーベック、ジョンソン、アール・スレーグル、ジョー・ファリオーニとソニー(!)。
2人は♪涙もろいペギー という曲を書いて与えたが、裏側に難点があって、わずかしか売り出さなかった。

リーダがメドウズのところを辞めた理由は、背の低い黒人の男の顔をバッグで殴りつけたことに関係がありそうだった。

リーダは再びエージャーズバーグに戻った。

同じ時期、寄宿学校に行かされることになったラドフォードのためにお別れのピクニックに皆で出かけた。
その平和な時、突然リーダの悲鳴が聞こえ、妙な姿勢になっているのを見て、
ラドフォードは、「盲腸が破裂したんだ。病院に行かなきゃだめだImage may be NSFW.
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」と言った。

クルマは1マイル離れたサマリタン病院に着いたが、看護婦はイヤフォンも外さず、
「お気の毒ですけど、この病院の規則ではニグロの患者は扱えないんです」と言った。

ジェファソン病院では、「当直の外科医を呼びます」と言い続けた。

メンフィスの病院に向かう車中で、リーダが「エンディコットなの?」と言い、ラドフォードは「ここにいるよ、お前」と答えた。
リーダは微笑んで目を閉じ、そして死んだ。

ラドフォードは、15年間ペギーに会わなかったが、偶然レストランで見かけて、彼女から声をかけてきた。
夫は海軍の航空兵だった。

「リーダ・ルイーズのこと、どう思う? 私、始終あの人のことを考えるのよ」
ラドフォードが♪涙もろいペギー を持ってると聞いて、聞きたいというペギー。
だが、そのレコードはひどく擦り切れて、もうリーダ・ルイーズとも思われないくらいだった。


「倒錯の森」
コリーン・フォン・ノードホッフェンの日記の抜粋から始まる。

“誕生日パーティに意地悪なローレンスが来なければいいのに。
 私はレイモンド・フォードが大好きです。彼はとても貧乏です。服を見れば分かります”

11月に引っ越してきたレイモンドがパーティに現れないので、女性教師は心配する。
身体検査の時、レイモンドの背中じゅうに恐ろしい傷跡を見たと噂になる。「お母さんが鞭でぶつんだ」

秘書のミラーが車で送ると、レイモンドの母の店は暗く、その上に住んでいる部屋も暗い。
母と2番目の夫が始終ケンカをしている間、レイモンドはなんとかとりもちながら、
コリーンにパーティに出られないことを詫びる。

レイモンドの母は、元はいい家柄の出だが、身分以下の結婚して失敗したと話す。

コリーン「どこへ行くの?」
レイモンド「知らないよ」

コリーンが16の時、父が死に、身長がとても伸びた。
青年たちは、彼女が必要以上に体に触れられるのを嫌がることに気づいた。

学校を卒業し、百万長者のごとく車を9台買ったりもしたImage may be NSFW.
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唯一の本当の友だちは、海水パンツのまま、車から落ちて死んでしまった。

コリーンは多読家Image may be NSFW.
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になり、「あなたはひどいエディプス・コンプレックスだ」と言われて怒り、
右目に黒いアザができたことが、彼女を職業婦人にした。
ロバート・ウェイナー(これを書いてる人物だが、三人称のままにしておく、という設定が興味深い)と知り合い、雑誌社に勤め、着実に昇進した。

ロバートは、コリーンの30歳の誕生日に婚約指輪Image may be NSFW.
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を贈ったが受け取らなかった。
もう1つのプレゼントの詩集『臆病な朝』のフレーズを読み返して感銘を受ける。

「荒地ではなく
 木の葉がすべて地下にある
 大きな倒錯の森なのだ」

これを書いたレイ・フォードを探し出すコリーン。彼は3回受賞し、30歳ということで確信を持った。
2人は再会すると、レイはコリーンを覚えていた。母はずっと前に死んだ。
彼は昼食に誘い、中華料理店に連れていかれた。

コリーンは、秘書ミラーは父の大金を盗んでメキシコに飛び、母は正装の夜会服のまま甲板から投身自殺したと話した。
「恋愛なんかしたことあるの?」
「いや、一度もしたことがないですよ」「僕は真の詩というものを死ぬほど求めていた」

レイは賭け事の店で働いて学費を貯めている間、リツィオ夫人に会い、儲けさせたお礼に一流の詩集を読ませてくれたことを話す。
イェイツ、キーツ、バイロン、シェリー、エリオットなどなど。書斎も自由に使わせてくれた。
レイは大学に入り、「7年半、僕の生活には詩以外は何もなかった。それ以前は、騒音と栄養失調だけった。酒もタバコものまない」

コリーンは、友だちが会いたがっているから、と夕食に誘うが、人間関係の苦手なレイはためらう。
レイはコリーンが自分を愛していることをはっきり分かった。
「どうして慎重にしようとしないのかね? 僕のことでも、他のことでも」という視線を向けて。

その後、また夕食をともにしたが、レイは23時を門限に課していたようだった。
やっと、コリーンの友人を紹介し、皆から称賛を受けた。

ロバート「彼は君を愛してはいないよ、コリーン。フォードの詩に到達しながら、同時に
美しく帽子をなおす女性を見つけだす男性の正常な能力も持ち続ける人はいないと言っているのさ」

「彼は重たい美の圧力のもとに書いている」

「彼がある種の精神病だと言うつもりなのね」

「彼は二度と見られないような最も酷い精神病さ。コリーン、彼とは絶対に結婚してはいけないないよ。
 彼は氷のように冷たい人だよ」

コリーンとレイは会って4ヶ月後くらいに結婚したImage may be NSFW.
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ハネムーンから帰った朝、メアリー・ゲイツ・クロフトという女子学生から手紙が届いていた。
両親は死に、叔母と住んでいること、自分の詩をフォード氏に見てもらいたいことが熱烈に書いてあった。

レイに彼女の詩を読んで欲しいと頼んでも空返事で、バニー(クロフト)が家に来た時も部屋に引きこもっていた。
コリーンはすっかりバニーと意気投合し、家に泊まっていくことまで勧めた。

やっとレイがバニーの詩についてコメントするが、
「あなたの詩を全部読みましたが、あなたは詩人とは言えません。詩人は創作するのではなく、見つけるのです。
 どんな種類の創作性も僕には耐えられないんです」

バニーは諦めなかった。しかも、コリーンとの昼食はとても楽しかった。
「私、書くことをすっかりやめようと思いますの」
「今晩、私たちとお芝居にいらっしゃいよ」

レイはバニーに大学の講義に出るよう招待した。
バニーが講義に出た日の晩、レイは酔って帰って、悪夢を見て、パジャマもシーツもびっしょりと汗で濡れていた。
そして、明け方4時と5時の間に泣いていた。

レイはコリーンの愛犬を嫌がり、膝がねじれてうずくまった時も助けてくれなかった。
午後に電話をかけてきて「今、ペンシルヴェニアにいて、これからミス・クロフトとNYを出るところだ」と言った。
レイの身の回りのものはすべてなくなっていた。

しばらく経ってから、寝込んでいるコリーンをミス・クロフトのことで男が訪ねてきた。
ハウィ・クロフト。バニーの亭主だと聞いて、コリーンは失神してしまう。

結婚して11年になり、バニーは、31歳のハウィより年上、11歳になる子どももいる。
結婚してからバニーは12冊の本を書き、レイのことはポン友のデュラントから知った。
バニーに話したコーネリア叔母の代わりに、映画館を経営している金持ちのアグネスという叔母ならいる。

「あなたの奥さんと私の主人んの駆け落ちのことは、どうなさるおつもり?」
「俺たちはここ2年ほどうまくいってなかった。かえっていいじゃないか。あんたの旦那もオレの女房みたいに気違いならさ」
玄関で、コリーンは声を限りに叫んだ「夫に帰ってもらいたいのよImage may be NSFW.
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その後も夫を捜しつづけ、1年半後、ウェイナーが居場所を突き止めた。
一緒に行くつもりが、コリーンは電話を切るとすぐに汽車に乗っていた。

バニーはコリーンに会えてとても喜んで興奮した。
レイは酔っていて、「彼女は小説を書いているんだ。僕の仕事を好まないんだよ」
「僕は帰るわけにはいかない。また脳(ブレイン)が一緒にいるんだよ」

最後に「私と家に帰ってくださらない?」と2度聞くと、レイは首を振った。

(なんとも不可思議で、哀しいストーリーだな・・・

**************

【サリンジャーと初期の短編 (渥美昭夫)内容抜粋メモ】

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サリンジャー選集2 若者たち(荒地出版社)

“君はまだ小さな少女さ。でも少年でも少女でも、いつまでも小さいままではいられないんだよ。
 子どもでいられる時間なんて短いんだ。”

この言葉の中に、サリンジャーの思想の一切の出発点が含まれていると思う。
「純粋なもの」と「インチキ」とを潔癖なまでに意識する作家である(そこに私は共鳴しているんだな

俗世間でいかにして自己の純粋さを守り、同時に閉鎖的にならないようにするか?
井上謙治氏いわく“倫理的には、キリストの『汝の隣人を愛せよ』という訓えにもどっていく”

ホールデン・コールフィールドがヘミングウェイの『武器よさらば』を「インチキ」と決め付けているのは有名。
ヘミングウェイの時代は、第一次大戦に理想主義を抱いて出征し、その理想を裏切られたために幻滅し、
「単独講和」を行うこととなったが、サリンジャーの世代は理想主義もなく、その反動の幻滅もない。
戦争という避けられない悪に対する諦念しかない。

*各話の解説*

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「マディソン街のはずれの小さな反抗」
『ライ麦~』の前身ともいうべき作品だが、初期のホールデンは、『ライ麦~』より複雑ではなく、
よく見かけるタイプであるがゆえにリアリスティックだと、
『J.D.サリンジャー』著者ウォレン・フレンチは述べている。

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「大戦直前のウェストの細い女」
日本軍が真珠湾攻撃を行ったのが、この年の12月8日。
ウッドラフ夫妻は、今世紀のアメリカがもっとも繁栄を見た時代、1920年代に属する。

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「ある少女の思い出」
ユダヤ系の作家でありながら、あまりユダヤ人の意識を作中にとりあげないサリンジャーが、
珍しくユダヤ人の悲惨な運命をとりあげているとこに興味がある。

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「ブルー・メロディ」
リーダはベッシー・スミスをモデルにしたものといわれている(本当にいる歌手かと思った
対外的には「自由」のために戦いながら、国内では致命的な人種差別を行っているアメリカという国家に対する批判の物語。

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「倒錯の森」
これまで不当に無視されてきたきわめて重要な作品。
現代の機械的、出世主義的な世界における想像的芸術家の苦境に対するアレゴリー(寓意)

「荒地ではなく~」は、T.S.エリオットの『荒地』に対する反駁。
バニーはレイから眼鏡をとりあげる。すなわち俗世間との交渉を絶ち切る。
レイはバニーに往年の母に代わるものを見出している。
(なるほど。コリーンにしてみれば不幸だけど、レイには落ち着けるのか。それもまた哀しいなImage may be NSFW.
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初期の短編には、テーマの多様さがある。
今日のサリンジャーを形成したいくつもの要因が含まれているため、全的に理解する資料として重要。

好個:ちょうどよいこと。適当なこと。またそのさま。



【J.D.サリンジャーの世界 -希望と現実- (大竹勝)内容抜粋メモ】
大竹勝氏は、過去の作品を総合的に振り返ることで、サリンジャーが『バナナフィッシュ~』からはじめて、
その後、全精力を費やしたグラス・サーガを詳細に分析しているのが興味深かった。



アンドレ・マルローは自伝『アンティ・メモアール』で、現在の問題から、次第に過去に遡って筆を進めた。

グラス家の家族構成:
父レスはユダヤ人、母ベッシーはアイルランド人で寄席芸人。
子どもが成長し、ラジオクイズプログラムの子どもタレントになって、第一線からしりぞく。

シーモアは1917年生まれ。15歳でコロムビア大学入学、英文学で博士号をとる。
1940年に彼とバディは1929年以来住みなれたアパートを去り、マディソン通りにあるアパートに移り、
出征する1、2年間、英文学の教師をした。
1942年、シーモアはミューリエル・フェダーと結婚。その後自殺する。

長女ブー・ブーは、タンネンバウムと結婚、3人の子を産み、西部に住む。

双子のウォルト、ウェイカー。
ウォルトは1945年、日本占領軍の上官がお土産で買った日本製小型ストーヴを荷造りしている時、ガソリンの爆発事故で死亡。
ウェイカーは、反戦平和主義者として収容所に入れられていたが、カトリック僧になる。

ザッカリー・マーティン(ズーイー)は、美男のテレビ俳優。

末っ子フラニーは、大学の上級学生。夏季演劇団に入っている。



サリンジャーの少年時代からの文学愛好は、12歳で『偉大なるギャッツビー』を読んでいた。

サリンジャーはトリリングの「風習」を描き出すことに非凡な才能を持っていた短編作家だった。

フォークナーですら、はじめ詩を思い立ったが制約が厳しく、短編に逃げ込んだが、これも意外に制約が多いので
遂に長編作家になってしまったと述懐している。

読者に驚きを与えなくなることは作家の致命傷だ。そこでサリンジャーは苦悩することになる。


*短編を振り返る*

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『ハプワース~』
シーモアは、インドのカルマ(業)や霊魂再来説(リインカネイション)を説き、手紙の中で2つの重要な予言をする。
1つは、自分は少なくとも、よく保存された電信柱くらいの寿命、すなわち30歳くらいはこの世に生きるという予見、
2つめは弟のバディが将来有能な作家となって、自分より長生きするという予見。

シーモアの死は、行き詰った敗北ではなく、7歳にして予見していた(ボランみたい
サリンジャー自身、シーモアの死については舌足らずだったこと、今作は弟バディが書いたと語っている。
バディは、大学で大乗仏教を講義する作家講師で、シーモアを“見神(神の示現を心で感得すること)の人”と解釈している。


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『フラニーとゾーイ』
フラニーは『巡礼の道』というロシア人宗教家の言葉、日本の念仏宗『南無阿弥陀仏』について語る。

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「コネチカットのウィグリおじさん」
エロイーズ・ウェングラーは、愛していながら結婚しなかったウォルトの思い出にふける。

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短編「小舟にて」
ブー・ブーの長男ライオネルが主人公。「お前の父さんは“カイク”(ユダヤ人)だ」と言われ、凧(カイト)と間違えてショックを受ける。

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「バナナフィッシュにうってつけの日」
サリンジャーは老子の道徳経「道可道、非常道、名可名、非常名」のことを考えたのかもしれない。
シーモアの苦悩は、かなり性的な弱さを含んでいるように感じられる。
「バナナ熱」は多くの評論家が指摘しているように、びっくりさせるフランクさで、
いきなり読者にぶちまけられるから、読者は気づかないで読み過ごすほどである。
(そこまで深く読み込まなかったなあ、読んだ当時は/驚

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『ライ麦畑でつかまえて』
ホールデン・コールフィールドの口癖「swearing(親しさ、ざっくばらんさ、威勢のよさ、など)」「and all(とかなんとか)」は、
1940年代のアメリカのティーン・エイジャーの言葉使いをよく観察している。
「phony(インチキ)」「nice(立派)」「It kills me(たまらない)」など。

これは少年のイニシエイションの物語。
現代社会への批判、不条理な世界への抵抗でもある。

サリンジャーと多少の交渉のあったウィリアム・サローヤンの『人間喜劇』との類似性についても興味ある比較がされている。
サリンジャーの、日本の禅、俳句、和歌への関心、中国の道教、インドの宗教思想への関心。

*ほかのサーガ作品*

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イギリス:ジョン・ゴールズワージイ『フォーサイト・サーガ』
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ドイツ:トマス・マン『ブッデンブローグ家の人々』
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フランス:マルセル・プルースト『失われた時を求めて』

サリンジャーに直接影響を与えたのはウィリアム・フォークナー『ヨクナパトーファ・サーガ』のマッキャスリン家に関する物語。

優れた短編作家の特徴として、作品が独自性をもち、その時々の意匠をもっているので、
新しい視野が展開されるたび、その都度修正されねばならない。そこに彼のアポリア(行きづまり)がある。
さらにシーモア、バディのように、時間を超越した境地にありとすれば、問題はますます複雑になってくる。
そこに彼の長い沈黙の理由があるのかもしれない。



この本の発行は1995年。いまやサリンジャーは他界してしまい、サーガの続きは読めないのだろうか?




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