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『心は高原に』(小峰書店)

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『心は高原に』(小峰書店)
ウィリアム・サローヤン/著 千葉茂樹/訳 杉田比呂美/絵
初版 1996年 1200円

※2002.5~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。

そういえば、サローヤンも好きだったな。


▼あらすじ(ネタバレ注意

たしか短大の推薦図書リストに入っていただけあって、
短篇でもグッと心をつかむ文章と、シンプルな話と設定なのに、じーんと感動する。


The man with the heart in the highlands
ラッパ吹きの元俳優のおじいさんが来て、詩人の父はもてなそうにもお金がない。
息子のジョーは、近所のなんでも屋に行き、

「家族はお元気ですか?」
「娘には高校を出て、雑貨屋にはなってほしくない」
「彼女なら、きっと大丈夫ですよ!」

なんて言いながら、ちゃっかりパンとチーズをつけてもらってくる

おじいさんは、演奏の代わりにごちそうをもらって、
17日間いたけれども、あっさり出て行く。


The last word was love
ケンカばかりの父母。

兄は17歳でとうとう家を出る決心をして、弟に朝、告げる。
兄を英雄視している弟は、戸惑いと、怒り、寂しさで混乱して、長い散歩に行ってしまう。

その後、サンフランシスコで一人暮らしも順調な兄を訪ねると、父にソックリになっていると気づく。

「また筏下りをしにきて」
「いや、もう僕らはいっしょに下ったのさ」

今では、弟も10代の子どもをもつ父親となり、夫婦のたあいないケンカが
どれほど子どものココロを傷つけているか初めて気づく。


「彼はいい子だ。私のことをつまらない人生を送った男と思っているかもしれない。
 自分は絶対あのようにはなりたくないと。しかし、一向に気にならない。
 もちろん息子はつまらない人生を送ることなど決してないだろう」


「僕はなにもかも学校でなく、兄から学んだ。
 兄はすべてを父から学んでいた。
 でも、僕らは何を知っていたのだろう?
 父は何を知っていたのか? 兄さんは? そして僕は?」


父と息子の関係は、時に無口で、反撥し合い、それでもやっぱり背を見て育ち、
歳を重ね、自分が父になって、初めて理解できるような微妙な関係なんだ。

10代の少年少女の、不安定でも可能性に満ちた一瞬を切り取った心象表現が素晴らしく、
父に宛てた置き手紙の締めくくりが「愛を込めて」というのが心に沁みる。

旅立ち、巣立つ息子を止めもせず、見送る父母。
その自然な態度が心地よい。



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