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『トム・ソーヤーの冒険』(偕成社文庫)

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『トム・ソーヤーの冒険』(偕成社文庫)
 

原題 The Adventures of Tom Sawyer by Mark Twain
マーク・トウェイン/著(1876) 吉田甲子太郎/訳

※1993.11~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト1」カテゴリーに追加しました。


マーク・トウェイン:
サミュエル・ラングホーン・クレメンズ(1835~1910)
ミズーリ州 フロリダ生まれ

ペンネームはミシシッピ川の水先案内人をしていた時
「三尋のところへ印をつけろ!」という号令を意味しているなんて知ってビックリ
(二葉亭四迷(明治時代の小説家)が「くたばってしめえ」からとったなんて話も知らなかった

アメリカを代表する作家の一人の代表作を初めて読む機会をもてて本当に幸運だった

いたずら小僧で、いつも元気いっぱい 次から次へと楽しい思いつきにあふれ、
周りをグイグイひきずりこんでしまうトム

それに負けない親友のジョー・ハーパー
トムと同じ孤児で浮浪児、冒険好きのハック

トムの親代わりのポーリーおばさん
トムの心を一瞬で奪った可愛い女の子ベッキー・サッチャー

大犯罪人のインジャン・ジョーら

それぞれミシシッピ川のほとりにある小さな村で、
1830年代頃を舞台に繰り広げられる、ドキドキする冒険の数々

それに日曜学校やらで起きる日常的な話が楽しく描かれて
読者の心を惹きつけてやまない



作者がはじめにことわっているとおり、これらは実在した人物とお話の混ざり合いらしいけど
一人の少年の体験にしては、なんて起伏に富んだ面白い少年期だろう

まさに若さと、その力を思う存分発揮して、1分1秒も惜しむように満喫している様子は
読んでいて胸がスカッとする

現代の規則でがんじらめにされている子どもたちとどれほど違っていることか!

それを考えると、周囲に自由に遊べる山や川、森や洞窟などの自然がないこと
そこから生まれるたあいもない迷信、純粋な心、自由な発想
豊富な生きた体験が失われてしまっていることが残念でならない


実際、これほど多種多様な迷信がいくつも出てくる話も珍しい
金曜という曜日は不吉だとか、とにかく数えきれないほどあって
そのどれも子どもたちは本気で信じて、現実に存在すると思い込んでいるところが面白い
それも考えようによって、良くも悪くもとれるのだから


子どもたちがそれぞれ持っている宝物の素朴さも興味深い

ビー玉とかは分かるけど、抜けたトムの歯や、リンゴのかじりかけ
ハックの死んだ猫やダニは、とても宝物とは思えないが

子どもたちにとってはとても貴重らしく、
いかにも交換したそうにしている場面はなんともいじらしい

今でも、子ども時代に大切にしていたものを思い出せば
どれもクダラナイものだったことを思い出す

迷信も形は随分変わっても、やっぱり時代に合わせて今でも口から口へと流され
それとなく信じられているところがあるし、
今作中に出てくるものも、簡単に笑い飛ばすことは出来ないだろう

その背景には、神さまへの信仰もあるわけだし
正しい道に導く道標のようなものだったんだ


『ピーター・パン』の子どもたちがした冒険などと比べると
トムらのした海賊ごっこなどはとてもリアルだ

夜中に家を出ることなど朝飯前で、近くの無人島へいかだに乗って出かけ
魚を釣ったり、自分たちだけでキャンプをしたり

突然「宝探し」を思いついたおかげで、インジャン・ジョーらの殺人現場を目撃しちゃったけど

本当にお化け屋敷に埋まっている600ドルもの大金が見つかって
トムはピクニックで洞窟に入った際、ベッキーと迷って、三日三晩彷徨った挙句
秘密の出口と一緒に、最後にはハックと大金の隠し場所を見つけて
本当に大金持ちになって、村の英雄になってしまう

想像上のおとぎ話というより、子どもだって本気になればなんだってできるんだ
という夢を与えてくれる 時代や環境もあるだろうけど


しかし、彼らの親にしてみれば心配だろうね
少年少女たちはいつだって目先の楽しさを追って、
家族の心配や、その先の成りゆきなんて考えていないから


作者が結びで言っている通り、これはあっという間に過ぎていってしまう子ども時代
とくに少年の姿を描いた作品で、本書でトムやその仲間は
『ピーター・パン』のように決して年をとらない

いつでも冒険、海賊、山賊などの話に夢中になっている少年のまま
生き生きと動き回っている

少年期で時間が止まっているからこそ、大人が読んでもいつまでも新鮮な感動を
呼び覚ます作品なのだろう


海賊ごっこから帰って、自分の葬式に生きて参列するという奇跡を行った後、
ポリーおばさんに夢の話をして、その嘘を見破られる

でも、眠っているおばさんにキスしたことは本当だと知って
「すべての罪を今こそ許してあげよう」という
“愛情の値打ち”を、電車に座って読みながら、涙をこらえるのに苦労してしまった

せっかく大金持ちになったフィンが窮屈な生活を強いられて
ステキな里親から家出してしまい、彼の無欲さには脱帽してしまう

「カンタンに手に入るものは有り難くないんだ」

そんなハックをサン族にしてやる代わりに家に戻るんだよ、と
自分でも知らずに、友をまっとうな道に導くトム
やっぱり彼も根はいい子なんだ


この物語の同系列にある『ハックルベリー・フィンの冒険』も早速読んでみたい




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