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『哲学するゾウ フィレモンシワシワ』 ミヒャエル・エンデ(BL出版)

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『哲学するゾウ フィレモンシワシワ』(BL出版)
ミヒャエル・エンデ/作 ダニエラ・シュジュンスキー/絵 那須田淳/訳

ミヒャエル・エンデ:
現代社会を鋭く見つめ、人々の殺伐とした心に、
失われたファンタジーと夢の世界を取り戻すことを呼びかけた
現代ドイツを代表する作家

児童文学のほか青少年文学、芝居の脚本、詩も手がけ、
多くは映画化、ラジオ、テレビ放送されている

世代、国境を越えて、40カ国以上の言語に訳され、
累計発行部数は2400万部にのぼる


那須田淳:
著書にミヒャエル・ゾーヴァ(!)との画文集『少年のころ』など


▼あらすじ(ネタバレ注意

インドの原生林にフィレモンシワシワという名の大きなゾウが住んでいました

誰もシワシワのほんとうの歳を知りません
それは小さなことで、シワシワの頭を占めていたのは
いつもなにかもっと大切なことでした

シワシワの皮膚はらくらく2頭分ありました
みんなは、なんてゆたかなのだろうと思いましたが
シワシワは自慢したりせず、大自然がくれた贈り物のひとつとして喜んでいただけです

自分の姿がどう思われようと構っているひまもないほど
シワシワはいつもなにかを長く、深く考えていたのです

シワシワは体の大きさからは考えられないくらい、いつも慎ましく、静かに暮らしていたので
近くに住む動物たちは、まるでガーデンハウスのように使わせてもらっていました




シワシワは何をそんなに考えていたのでしょうか
それは大きくて、美しいもののすべてでした

外から見える大きさだけではなく、心の世界もそうでした
シワシワは、外から見た大きさは、あまり意味がないことをよく知っていました




夜空が足もとの水に映し出されると、感動し、怖れ敬いました
この美しい夜空にくらべて、自分はなんてちっぽけなのだろうと思い、
それはシワシワの心をしあわせにしました

世界のヒミツは、考えるほど、どんどん大きく深くなっていくように思えました

どうか、サルたちのように笑ったりしないでください
早く解決すればいいというものではないことを、サルたちはわかっていないのでしょう


聖なる川を下ると曲がるところがあり、流れ着いた藻などがたまって腐り、
汚い大きな山ができていました

この山には、ものすごいたくさんの、いろいろな種類のハエがすんでいました
自分たちがたくさんいるために、とても偉いと思っていたのでした




「我々は世界でもっとも重要な生き物だ
 だから、世界のあらゆる生き物たちは、ひざまづいて、感謝すべきなのだ!」

ハエたちは本気でそう思い、ほかの生き物の周りを飛んで
煩わしくするのも当然だと好き勝手にしていました

ハエたちは、誰からも尊敬されないことに腹を立てていました
ある日、世界で一番強く、利口で、偉いのはだれかを思い知らせようと考えました


山のてっぺんにとまった太ったオオクロバエが言いました

「おれたちはとても速く動くことができる みな足が6本もある
 サッカーチームをつくれば、ワールドカップ制覇など簡単だ!
 すべての動物たちに、試合を呼びかけようではないか!

 みんなが委員会のメンバーだ おれが、その会長になろう
 議題の一番目は、一体、誰をやっつけるかね?」


足が5本になった年老いたイエバエが「蟻から始めてはいかがだろう」と提案すると
ほかのハエは憤慨したり、あざ笑ったりした

「じゃあ、カエルはいかがかな?」

こんどはみんなしーんと静まり返りました
会長は「そのような危ない発言は、今後禁じる!


水を飲みにやってきたトラに試合を申し込むと
「今日のハエはやけにしつこい もうじき雷雨にでもなるのかな」と追い払った

若いオオクロバエは

「あいつは我々と対戦する勇気がない 最初から試合放棄
 つまり我々はトラに勝ったのです


ミドリキンバエは

「我々の体でほかの動物にないのは、この長い口であります!
 それに対抗できそうな動物は、もはやあのゾウしかいないのであります」

シワシワは頭をゆっくり縦に振りました
それはいつもしていることですが、ハエたちは試合に応じる返事だと考えました


委員会のメンバーは、マグソコガネにサッカーボールをつくるよう頼みました



ハエの代表選手を選び、チーム名を決めました
「FTH(FUHAISHITAMONONI TAKARU HAE 腐敗したものにたかるハエ)」




シワシワの巨大な足元に小さなグラウンドをつくり試合が始まりました
シワシワがそれに気がついたらきっと微笑んだことでしょう
でも、別のことを考えるのにいそがしくて、なにも見ていませんでした


試合結果はハエチームの108対0の大勝利になり、ハエたちにとっても驚きでした
選手たちが英雄として褒め称えられたのは言うまでもありません




ところが、その夜、どしゃぶりの大雨になり、
聖なる川は暴れ、腐った藻の山ごと流し去ってしまいました








エンデの風刺は、時に痛快で笑ってしまうと同時に
このハエたちが紛れも泣く、我々ヒトだと分かるため
その愚かさに哀しくて泣きそうになる

遠くにはいつも宮殿が象徴的に建っているのが見える



山のてっぺんで大声をあげ、大勢のハエを扇動しているのは政治家で
彼らに操られながら、世界で一番偉いと思い込んでいるハエたち

小さな群れなのに「ワールドカップ」と名乗ったり
背番号をしょった選手たち、タオルを肩にかけて応援するハエたち、
中継しているハエまでいて可笑しい

こんなにいろんな種類のハエがいるのね/驚
ハエ自体は、実際はイイ生き物で、腐敗したものを分解して自然に還してくれている

勝利を祝う間もなく、毎年の季節のスコールで一瞬にして消えてしまう儚さ


自然は自然のまま活動しているだけだけれども、
もしかしたら、我々のエゴを正しているのかもしれないと思わせる

ハエたちがいなくなっても、変わらない大自然
一等になるなんて驕りでしかないと、エンデはこの美しい絵本の中で語っている
やっぱり素晴らしい作家だなあ


生き物たちの世界をダイナミック、ユーモラスに描いたイラストレーター、
FTHの和訳で笑わせてくれた訳者さんもすべて揃っている
私の大好きなゾーヴァさんとの著書も気になる







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