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宮沢賢治絵童話集 13『銀河鉄道の夜』 東逸子/画(くもん出版)

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宮沢賢治絵童話集 13『銀河鉄道の夜』(くもん出版)
宮沢賢治/著 東逸子/画 天沢退二郎・萩原昌好/監修

「読書感想メモリスト1」カテゴリーに追加しました。


宮沢清六 筆



【宮沢賢治絵童話集 第13巻 月報10 1993年6月 内容抜粋メモ】

豊沢川


賢治が7歳の夏、遊泳中の小学生が渦にのまれて亡くなった
捜索する舟の光を眺めたこの日の事件は今作に投影された


「宮沢賢治との出会い/王敏」

文化大革命後の後遺症で、中国国内の文学的作品や、外国の作品等が皆無の中、
石川先生が、自身でガリ版印刷した「雨ニモマケズ」と出会い大変ショックだった
異文化、異民族の人々でも、真理を探求する心、精神は普遍的だと解りました

指導教師のこうえい先生は、日本文化学院、陸軍士官学校などを卒業されており
賢治とも「銅鑼」の同人であり、賢治が病床の時は見舞いに行き
詩集なども発表した方で、講義の教材に『オツベルと象』を使用した

このお2人との縁により、『注文の多い料理店』の翻訳をし
文革後、初めての日本文作品の紹介となり、大きな成果を生んだ

その後、日本の文部省の奨学金を受けて、宮城教育学大学に留学したことも
当時の中国ではセンセーショナルな話題となった

国境を越えられるのは、心、精神であるならば、死を超えられるものは何だろうか



「結晶石と宇宙の感情/東逸子」

ふとしたことで手に入れたホタル石を終日眺めていたことがある

ジョバンニとカムパネルラの旅した銀河は壮大な宇宙を想わせながら
同時にこの結晶のような微細な内宇宙ではなかったでしょうか

童話に真正面から取り組む時、彼の視覚がいかに大自然を相手にしているかを想いしらされる

少年たちや、私たちの心を乗せた銀河鉄道は、
マクロとミクロ両極の宇宙を走るとともに
精神の宇宙までも走っている

この美しく透き通った内外宇宙の旅の果ては単純な「死」とは思えない
そこは賢治の魂の真の姿が、サザンクロスよりも輝いているはずです



「あの年、この月の賢治 賢治カレンダー6月」

宮沢賢治記念館/梅木万里子
羅須地人協会がけ下の荒地を、賢治は独居自炊しながら開墾した

「来春はわたくしも教師をやめて本統の百姓になって働きます・・・」

子どもの頃、質・古着商という家の職業に抵抗を感じていた賢治は
将来の職業について父と意見を深く交わした時期があった

21歳の時には手紙に法華行者として生きる決意でいると伝えているが
卒業後は学校で稗貫郡土性調査に携わった
が、この仕事に対しても賢治は疑問を持つ

31歳、賢治は上京 大島に渡り、水沢出身の伊藤七雄を訪ねる
伊藤が大島に農芸学校を開校する考えに応じ、
賢治が土質の調査、農園の設計をするためだったと言われている
この時の様子は、『三原三部』に描かれている

***

くもん出版:
本文は、原文を尊重する立場に立った上で、一部を除き
『校本宮沢賢治全集』(筑摩書房)を底本とし、一部を訂正した


***

【イーハトーブ夢先案内 内容抜粋メモ】

「心に銀河鉄道を持って/斎藤文一(新潟大学名誉教授・物理学)」

今作の銀河鉄道は、はくちょう座から始まり、こと座、わし座、いて座、
賢治がとりわけ愛した一等星のアンタレスをふくむさそり座、ケンタウルス座、
終着駅は南十字座付近を走る これらはすべて夏の星座である

冬の銀河系と夏の銀河系では、明るさ、天の川の幅、明暗の模様もまるで違う
夏の銀河系のほうが断然明るく、星の数も、その他の物質も断然多い
賢治は、銀河鉄道を銀河系の中心部へ向けて走らせた

『銀河鉄道の夜』は、けっして単に星座から星座への汽車の物語ではない
もともと星座は、単に、太陽にほど近い恒星の偶然の配置にすぎないのですから
銀河系という1個の巨大な物質系の中心部に走る物語ということになる

プリオシン海岸のあたりでは、銀河系の地層を掘る場面がある
つまり、銀河系がどうつくられてきたかを調べようとしている
なんという大きな発掘でしょうか!

今作は、いまだに解けていない謎も多い
まず作品全体に流れる大きな構図を、時間をかけて読み解くのがいいと想う
心に銀河鉄道を持って



「ジョバンニの切符/吉見正信(近代文学研究家)」

ジョバンニの印象は、まるで違った2つの姿に読み分けられる
最初は、家が貧しく、母が病気で寝ていることから、どこか孤独な姿が気にかかる
が、実は、意外にしっかりしていて、元気な少年であることに安心する

ジョバンニの気持ちがガラリと変わるのは、鳥を捕まえて商売をしなくてはならない
気の毒な鳥捕り、船が沈没した遭難者の3人のことが気になってしかたない
自分はどうなっても、なんとかその人たちを幸せにしてあげたいという気持ちになる

そのきっかけは、自分が持っている切符が、どうも特別だということに秘かに気づいたからに違いない

私たちもジョバンニと同じ切符を持つことができる
それさえあれば、人々の幸せのために、どこにでも自由に行くことができるのですから




***

“この宮沢賢治絵童話集は、全15巻あり、人気イラストレーターにより、幻想世界を再現している”とある

東逸子さんの絵は、『銀河鉄道の夜』の世界にピッタリだ

まず、今作は未完成なために、どれを底本にするかも重要だけれども
“子どものため”に旧仮名遣いを、新仮名遣いに改めたのは
賢治の魅力を半分以上奪うことになるのが残念

でも、最初に出会うには、まず難解な言葉を入れずにストーリーを読んでから
より興味をもったら、より生原稿に近い形で読み直すのもいいかもしれない

もう何十回読んだかしれないけれども、声を出して朗読を試みたら
数ページもいかないうちに、もう胸が詰まって泣いてしまうので
心の中で読んだり、またセリフだけ口に出してみたりしてみた

登場人物の中で好きなのは、なぜか鳥捕りの男
解説では、“気の毒な”と言っているけれども、彼の言う

「ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」

というセリフが大好きだ
現代の働き過ぎな日本人も体にちょうど合う労働が出来ればいいといつも思う

今回は、私の好きなセリフを青空文庫から旧仮名遣いで抜粋してみようと思う


***




「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」さっきのザネリがまた叫びました。
「ジョバンニ、らっこの上着が来るよ。」すぐみんなが、続いて叫びました。

ジョバンニはまっ赤になって、もう歩いているかもわからず、
急いで行きすぎようとしましたら、そのなかにカムパネルラが居たのです。
カムパネルラは気の毒そうに、だまって少しわらって、
怒らないだろうかというようにジョバンニの方を見ていました。




「みんなはねずいぶん走ったけれども遅れてしまったよ。
 ザネリもね、ずいぶん走ったけれども追いつかなかった。」





「この地図はどこで買ったの。黒曜石でできてるねえ。」

「銀河ステーションで、もらったんだ。君もらわなかったの。」

「ああ、ぼく銀河ステーションを通ったろうか。」





「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。
 ぼく、飛び下りて、あいつをとって、また飛び乗ってみせようか。」

「もうだめだ。あんなにうしろへ行ってしまったから。」




「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。
 ぼくはおっかさんが、ほんとうに幸になるなら、どんなことでもする。
 けれども、いったいどんなことが、おっかさんのいちばんの幸なんだろう。

 誰だって、ほんとうにいいことをしたら、いちばん幸なんだねえ。
 だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。」





「あの人どこへ行ったろう。」

「どこへ行ったろう。僕はどうしても少しあの人に物を言わなかったろう。
 僕はあの人が邪魔なような気がしたんだ。だから僕は大へんつらい。」






「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでも
 それがただしいみちを進む中でのできごとなら
 峠の上りも下りも みんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」

「ああそうです。ただいちばんのさいわいに至るために いろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。」





「ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない
 そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときは あんなに一生けん命にげた。
 それでもとうとうこんなになってしまった。

 ああなんにもあてにならない。
 どうしてわたしはわたしのからだを だまっていたちに呉れてやらなかったろう。
 そしたらいたちも一日生きのびたろうに。

 どうか神さま。私の心をごらん下さい。
 こんなにむなしく命をすてず どうかこの次には まことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。」








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