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『まぼろしのペンフレンド』眉村卓/著(角川文庫)

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■『まぼろしのペンフレンド』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和50年初版 昭和57年24版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。


[カバー裏のあらすじ]

誰にでもよくある〈へんだな……?〉と思う一瞬。
それが実は、あなたを知らず知らずのうちに、とんでもない事件に引きずり込む前兆であったりするのです。
ある日、中学一年生の明彦に突然舞い込んだ、見知らぬ女の子からの奇妙な手紙――
そこには下手な文章で、“あなたのすべてを詳しく教えて”と書かれ、一万円が同封してあった。
好奇心に駆られた彼は、それがこれから日本の全国を恐怖のどん底に落としいれる事件の前ぶれとも知らずに、返事を出したのだった。
鬼才・眉村卓の描くSFスリラーサスペンス、表題作ほか2篇収録。


タイトルはハッキリと記憶にあって、これも学生時代に読んだと思うのだけれども、
ノートにメモはなかったので、新鮮な気持ちで読むことができた

この表紙も、私の好きな木村さんだが、あの写真をひっかいたようなスタイルとは違うもの

まず、このタイトルからして昭和っぽくて目を惹く
読むと、まだ中学生だからか、こんなにいろいろと怪事件が起きているのに
気のせいだと済ませて、知らない相手に言われるまま自分の写真を送ったりするのは
今では考えられない・・・と思いながら読んでいたけれども

そういえば、LINEやFACEBOOKのやりとりでも
普通に顔写真や住所、行動をそのまま公開して、
本当かどうか分からない情報を信じて、一度も会ったことのない相手を「カレシ」と呼んだりして
今の若いコたちも同じだということに気づいてドキっとした



▼あらすじ(ネタバレ注意

「まぼろしのペンフレンド」

中学生になったばかりの渡辺明彦は、高校生の兄・和彦と同じ部屋を使っている

1年ほど前、明彦は、ある雑誌の文通覧に名前を載せて、
当時から定期的にやりとりしているのは今は数名だったが
ある日、本郷令子という名前で1通の手紙が届いた

「私は大阪に住む中学2年生です 東京のことを知りたいと思いますから
 あなたの学校や家庭やお友だちのことを、できるだけくわしく教えてください
 返事にはかならず同封の封筒を使ってください
 調査費を同封しました。使ってください」

封筒の中には1万円札が入っていて驚き、両親に話すと、父から
「常識外れにも程がある そんなお金はすぐに送り返してしまいなさい」と言われる

イタズラかもしれないし、お金は返して、返事だけ書こう


翌日、小学校からのクラスメートから
「今日もバレーボールの練習? 運動なんかしていたら損だぜ
 今度は高校だろう? みんなすごく勉強しているらしいよ」と言われムッとする明彦

そういえばこの中学には、どうもそんなガリ勉が多いようだ


同じ1年生で卓球部の伊原久美子にぶつかって、彼女のカバンから、
自分が本郷令子からもらったのと同じ、青い封筒が出ているのを見て驚く
聞くと、やはり知らない名前で、内容も同じ

「うちのパパ、銀行に勤めているの
 いろいろ調べたんだけど、どこか感じが違うけど、ニセ札とは断定できないんだって
 私、このあいだ学生コースの懸賞に入ったから、その時の住所でも見たんだと思うわ」

まるで、手当たり次第に文通しようとしているみたいではないか


その後、手紙の返事が来たが、送り返したお金は「名宛人不明」で返ってきた 返事には

「役に立ちます これからももっといろいろ教えてください
 できたらお友だちと撮った写真、あなたの身長やウエスト、バストの寸法なども・・・」

家族で住所を調べてみると、存在しないと分かる


明彦は、久美子の家を訪ねると、彼女は卓球の試合でいなかったが
銀行勤めの父と母が丁寧に応対してくれた 父親は

「銀行員は、ニセモノか本物か手触りでピンとくる
 この紙幣はちょっとおかしいんだが・・・
 科学的に鑑定すると、ちっともおかしくないというわけで・・・
 最近、こうした紙幣がちょくちょく店頭に現れるんですよ
 調べてみると番号が近いんです」


兄「大規模なスパイ団に狙われているんじゃないのかな 組織的に、この辺りを調べ始めているんだ」

明彦「スパイ小説の読みすぎじゃない?」


学校の帰り道、卓球部員の悲鳴を聞いて駆けつけると、
大きな見慣れぬトラックが停まっていて、中から10人ほどの男たちが出てきた
彼らは双生児のように同じ背丈、顔立ちもそっくりだ

明彦は彼らに囲まれて、フラッシュのような光がひらめき、
男たちはまたトラックに乗って去る

兄「それは立体写真じゃないかな」

それから本郷令子から手紙は来なくなった


ある日、帰宅すると、父母が玄関に立っている

父「明彦か?」

母「お父さんが、出張先の大阪で、お前ソックリの子に会ったんだって」


「そこは工場街でね、いろんな工場がひしめいていて、互いに隣りのこともよく知らないんだ
 何気なく、隣りの工場の前を通ったら、そこにお前がいるじゃないか
 ただ似ているなんてものじゃない、そっくりなんだ

 わしは思わず叫んで、工場に飛び込むと、お前ソックリの子は、こちらを見るが早いか逃げ出したんだよ
 わしは追いかけたが、その辺で働いていた男たちがわしを取り押さえた
 その男たちがまた・・・みんな同じ顔なのだ」

ようやく父母は恐怖をおぼえ、兄の空想のような話もウソじゃない気がしてきた


学校で久美子に声をかけると、とても怒っていて

「ゆうべ12時頃、私の団地のあたりをウロウロしていたでしょ? 一体何をしていたのよ!
 パパ、すごく怒っていたわ 気持ちのいい少年だと思っていたのに
 夜中に女の子の家の周りをうろつくとは何事だって」

明彦が弁解する間も与えず、行ってしまう


帰宅すると、本郷令子から返事が来ていた
「明日、東京に出てくるから、迎えに来て欲しい」という

これまで写真も送り、友だち、家族のことも詳しく教えたが、これは勝手すぎる
先方からは何ひとつ自分のことを書いてこないし
だが、謎であるほど面白いとも思ってしまう


明彦はハッキリさせるため、1人で顔も知らない本郷令子に会いに行くと決める

東京駅 18時過ぎ 帽子を深くかぶった男が来て

「渡辺明彦さんですね? 本郷令子さんの使いの者です
 ちょっと事情ができて、本人はあっちで待っているので、どうぞ、こちらへ」

(こんなのにひっかかるなんて危険過ぎるよ まあ、小説だからだけど

黒いクルマが来て、「乗ってください」
明彦は捕まれた手を激しく噛むと、まるで金属を噛んだようだった
そこに兄が体当たりして助けてくれる

「今なら警察に言えば、話を聞いてくれると思うんだ」


2人は帰宅すると、ちょうど明彦ソックリな少年が帰宅するところだった!


「本郷令子は、お前を誘い出すつもりだったんだ!
 お前を捕まえてなんとかし、ニセモノが家族として暮らしはじめる
 そうだ、あいつが2階へ上がるのを待って、お前を中に入れる案はどうだ?
 いいか、本物かどうか分かるように、僕が腕を組んだら、お前は頭を掻くということにしようl」

身を潜めていると、不意に数人の男から「見つけたぞ」と声をかけられる
捕まったら、それで最後だ 玄関を叩いたが間に合わず、逃げ出す明彦

男の指先からアンテナのようなものが伸びた きっと電波で僕の居場所を仲間に教えているんだ
そこに愉快そうに話す男女が来て、明彦は迷子になったフリをして同行してもらい
駅の近くの学校へと走りこむ

宿直室の灯りがついていて、卓球部の部長もしている荒木先生が開けてくれた 事情を話すと

「信じられん だが、君が真っ青な顔をして飛び込んできたのは事実だ 君の家に電話は?」
「ありません」(ない時代か!

学校の周りをあの男たちが歩いている足音がした
「おい! 君たちは何だ」先生が大声を出すと、彼らは逃げて行った

「夜が明けたら、君は警察や先生方と一緒に家に帰るんだ」


まだ半信半疑だった先生だったが、翌日、
「君、ソックリな生徒が登校してくるのを見た 僕は、君の話を全面的に信じるよ」

担任は遅くなるため、教頭に話すとなかなか信じてもらえない
父の会社に電話すると、珍しく休んでいると言われる
学校の自転車を借りて、明彦の家に行くという先生(クルマもない時代か!

そこに兄が来て、腕組みをしている 2人だけの合図を思い出して、頭を掻く明彦
昨日は家族で心配していたという

そこにドアを乱暴に開けて、謎の男たちが乱入してきた
校庭に出ると、2人の明彦が遭遇して、周りの生徒は呆然とする


明彦はトラックに乗せられ、パトカーが来てホッとしたのも束の間
辺りに振動が起こり、キイーンとした音がして、物音がすべて消えたと思うと
周りは青田の場所に着いた

どこかの工場の構内のようだ ブロックづくりの構築物があり
そのエレベーターに乗ると閃光が走り、すごい爆音の末、別の部屋に着く


そこには工場のような建物がひしめきあっていて、
働いている何百人の連中は、どれも同じ体格、顔立ちの男たちだった
これは、まるでロボットの都市ではないか
量産された人間まがいの連中が働く工場群ではないか

そこに伊原久美子を見つけて声をかけると反応がない

「あれは本当の伊原久美子さんではありません アンドロイドです」

明彦より1、2つ上くらいの、目の覚めるような美しい顔立ちの少女がいた

「私、本郷令子と言います 私は侵略者ではありません
 私はオリジナル・アンドロイドで、仕上げるのに時間がかかり、東京に会う時間に間に合いませんでした」


明彦は「訓練所」に連れていかれ、抵抗すれば「原子分解銃」で消されると言われる
「それが、私たちのご主人の考え方なのです」


「訓練所」は、明彦の家ソックリの模型があり、懐かしさで泣きそうになるのを堪える
明彦が「止めろ!」と令子を突き飛ばすと「あなたは私を・・・憎んでいるんですね なぜです?」
その人間らしい表情に明彦は戸惑うが、「ご主人とやらに会わせろ」と交渉すると空から声が聞こえる

「シツモンヲ マツ ワタシハ ウラノ ウチュウカラ アクウカン(亜空間)ヲトオッテ ヤッテキタ
 ワタシハ ユウキセイメイ(有機生命)ノアトカラ ハッテンシテキタ ムキセイメイ(無機生命)
 ジンコウズノウ(人工頭脳)トヨンデイルモノヨリ ハルカニ ハッタツシタセイブツダ
 チキュウモ コノウチュウモ ムキセイメイノモノニナルノダ」

令子
「あなたは、ここで暮らし、私はあなたの言動を観察して記録します
 ぜんぜん協力しない時は、他の人間を連れてきて、あなたは処分します
 私は普通のロボットにない奉仕用の感情回路を持っています
 だから、私を憎まずに協力してください」


毎日、単調な繰り返しに飽きてきた明彦は「もうたくさんだ あっちへ行け!」
「使命を果たすのは喜びのはずなのに・・・私には人間というものが分からない」


数日もすると令子は
「やっと人間の気持ちが掴めてきた気がするの
 人間にとって生きているということは、それだけで喜びなのね」

明彦は、ハッとした 令子は、次第に人間的な感情を持ち始めたのではなかろうか
令子を利用して、僕は逃げ出せるかもしれない


令子は明彦が工場の外に出るのを許し始めた
そこで伊原久美子と再会 「渡辺さん、助けて!」

令子「あなたは、あちらで処分されることになっています」

明彦
「待ってくれ 男の子と女の子は、ものの考え方も行動もまるで違うんだよ
 あなたは普通の女の子として通用するとは思えない
 だから、もっと人間の女の子のことを学んだほうがいいんじゃないだろうか
 使命を達成するつもりなら、それくらいの用心をしなくちゃ」と言って納得させる

久美子は、2人が共謀しているのではと疑う「この女の仲間だったのね!


あれから久美子とは別々にされ、令子に尋ねると、なぜか不機嫌な口ぶりになる
「あの人間は仕事に協力しないのよ あなたに会いさえすれば協力できるかもしれないと言うのよ」

久美子は自分の立場をさとって、明彦と会うチャンスを作ろうとしているのだ

令子「あなたは、私のコントロールのもとになければガマンできない・・・なぜかしら」

明彦は驚く 恐らくご主人は、令子をあまりに人間そっくりに作り過ぎたのだ


久美子は、急ごしらえの粗末な家のセットにいた
「ああしろ、こうしろって、機械人形のくせにうるさいわね!
 あなたみたいな出来損ないは、あっちへ行っててよ!」

令子
「この会見はムダだわ やはりすぐに処分しなければなりません
 私は必要とあればいつでも本来の体力にかえれるのよ」

途端に令子の瞳はギラギラ光り、美少女はたちまち、固く冷たい表情になった
2人はあてもなくセットの中に逃げた


その時、地震にしては奇妙な震動が起きて、大勢のロボットたちも立っているのが精一杯だった

令子「そんなはずはないわ 亜空間が崩れるなんて」
  ここの置換エネルギー維持装置が破壊されたら、すべてが木っ端微塵になってしまう」

久美子「早く、今のうちに逃げるのよ!」

叩きつけるような衝撃で、明彦は倒れてくる建物の柱をよけきれず観念すると
令子が飛び込んで助け、令子の片腕は導線が垂れ下がり、残骸になってしまう

「私は、あなたが死ぬのに耐えられなかった・・・
 ここと地球空間を切り離すほかに助かる道はないわ
 私たちは地球侵略に失敗した でも・・・なんだか私はそれで良かった気がする なぜかしら」

「一緒に逃げよう」

「いいえ、私はアンドロイドで人間ではない 私しか空間を切り離せない 残らなければならない
 行きなさい! (久美子にも)あなたもいっしょに逃げなさい さようなら・・・」

最初に連れられてきたエレベーターのようなものに乗り、振動が終わって外に出ると
警官、父母、兄も泣き笑いして走ってくる

警官らは、ブロックの建築物を叩き壊している



兄たちの話だと、トラックは、まるで魔法のように目の前から消えたという
久美子も入れ替わっていると母親も気づき、すぐに警察に言い、
父の話から工場を見張っていると、トラックが入るのを見た

そこでロボットと撃ち合いが始まり、人が入れそうな所を全部壊したが2人は見つからなかった
明彦たちが出てきてから、構築物は破壊されたが、その中は空っぽだった
それでも一応、事件は終わったことにされた

マスコミは騒いだが、忙しい現代に暮らす人々が、いつまでも1つのニュースに捉われているわけがない
亜空間とか、耳慣れない単語の記事を熱心に読む人も、それほどたくさんはいないのだ
やがて、人々の心から事件は忘れられ、他のニュースに関心が移ってしまった

が、直接の関係者にとっては、心に傷が残った


区の体育大会の日 明彦はあの亜空間の夢を見て呆然としていた
セットの中で、令子はひどく親切で、脱出しなければと思いながらも
どうしても逃げる気になれない 令子が姉のような感じなのだ
目が覚めると、よかったというより、何かを失った気になったほどだ


「お前、このごろ、時々ぼんやりしてるぞ
 たしかにあれは、実に巧妙な侵略のやり方だった
 もう少し事態が進めば、どんどんアンドロイドに置き換えられただろう
 それこそ、友情や愛情なんて、ひとかけらもない世界になったに違いないんだ

 つまり、アンドロイドと人間は、いっしょに存在できなかった 違うか?
 人間のお前は残った それは、本郷令子がそう望んだからじゃなかったのか?」

そうかもしれない いつかは忘れなければならないんだ

階下から、母と明るく話す久美子の笑い声が聞こえてきた




「テスト」

文芸部部長・村尾良作は、みんなが勉強に忙しく、原稿が2週間も遅れていることに激怒すると
部員の小田三千代は

「みんな努力してるわ 私たちは、あなたと違うの
 あなたのように文芸のためになにもかも注ぎ込むことはできないのよ」

「君は、僕とは違うさ! 優等生で、クラスの人気者で・・・」

「あなたは逃げているのよ! そんなに一生懸命に文芸に打ち込むのは
 毎日の生活から逃避しているのよ 文芸に打ち込むことで、自分を誤魔化しているのよ」

「馬鹿な!」(また出ました


劣等感 そう、それを彼は、創作につぎこむほかなかった
その結果、ますます劣等感を強めることになる


帰り道で、クルマが停まり、背の高い男が出てきた
どことなく異質で、ひどく弾力のある感じ 何者だろう

「我々は、君の作品を拝見した 非常に優れていると思う
 ともかく一緒に来てくれないか その才能を活用してもらいたいのだよ」

普段なら見知らぬ人についていく良作ではないが、三千代との口論や
もしかして、彼はどこかの編集者かもしれないと思い、ついていく

クルマも異様で、複雑な操縦盤がある
抵抗した時は、揮発性の臭いとともに意識がうすれていった


気づくと、3人の人間がいた
2人の男と1人の女性 彼女は、瞳、眉、髪も濃いグリーンだった

胸に変な箱のようなものがついていて、互いの言葉が翻訳されている
「それは翻訳ボックスなのだ ここは、君の世界とは、別の宇宙に属している」

良作は、とにかく逃げ出すと、林に入りこんだ
銀色のロボットが彼のそばに来た

「コノ林ハ、散歩と思索ノタメノモノデス
 今アナタガシテイル行為ヲヤリタケレバ、建物ノ中カ
 花園ノホウヘイッテクダサイ」


林がだしぬけに終わり、花園に入ると、歌声が聞こえてきた 人間だ!

「あなたも、貴族なの?
「あなたは、何を教えてくれるの?」

と言いながら、良作を取り巻く

1人が歌いはじめ、はっきり言えば音痴に近いが、本当に心から楽しんでいる


そこに小さな円盤が降下してきた 「先生だ!
さっきの緑色の女性が出てくる

「あなたは、テストにすべったのよ
 この世界は理想郷なの だったというべきかしら
 文明が頂点に達して、人間は働く必要がなくなった
 仕事はみんな、ロボットや自動機械がやり、みんな遊んで暮らすだけの毎日になったのよ

 でも、それが何百年と経つうちに、人はだんだんと考えないようになった
 自分の次元から、他の次元に移れる装置を発明した人が
 偶然、この世界を発見して、もとのレヴェルに戻そうと考えたの

 ここの住民を指導できる人間を、いろんな次元から集めてきて、今じゃ大規模にスカウトが行われているのよ
 ここの傷みかかった機械を修理し、人々を指導する知識と才能をもつ人が必要なの

 たしかにあなたには才能があると思えた
 でも、思考の方法を分析すると、ひどくアンバランスで、その上に才能が築かれているので
 ここでの毎日の生活に満足してしまうと、消えてしまう恐れがある
 手遅れにならないうちに、あなたを元の世界に返すことになったの」

最初の男は「僕は、何千人といる次元間スカウトの中でも、エキスパートのほうなんだが ほんとうに悪かった」


良作は、丸一日行方不明になっている状態だから、適当に誤魔化してくれと言われ、もとの場所に戻された
クルマは音もなく消え失せる

・・・彼女の言ったことが本当ならば、僕は、嫌でもどちらかを選ばなければならないことになるのではないか?
今のように、文芸のためになにもかも投げ捨てて生きていくか、
普通の学生のように予習復習をして、平凡だが、満足した生涯を送るか

どうせ、そのうちに選択しなければならないのだ
このままいけば、どちらになるのかも分かっていただけに、すぐには決断する気になれないのだった

(すべてロボットに仕事をさせられるようになれば、ヒトは好きな仕事、創造的なことや
 他の星の生物を助けたりするような奉仕や研究を始めると思うけどなあ
 それに、すべてを忘れて歌ったり、踊ったりすることが単純に退行だろうか?
 たしかに老朽化する機械のメンテは必要だけど・・・



「時間戦士」

タキタのパトロール機は全速を出していた
住民は誰も残っていないはずだが、念のためチェックしている

「ザグバンダ」が現れる以前の生活が、今となれば、なんとちっぽけなことに齷齪して、
平和だったか、不思議に思えるような象徴的な無数のドア

「ザグバンダ」は刻々とこの都市に接近している

ドームに覆われて、外と隔てられ、24時間止まることのない大都市
1回で20万人以上収容できる特設広場から、跳時装置に乗り込み、人々は逃げた

400隻の跳時戦闘船は、一見シンプルな円盤状だが、実は科学技術の結晶だった
「ザグバンダは、ついにフジ市に到達した模様です」

この船の最年少は15歳 タキタは2つ年上なのに、体が震えだした
早期に戦闘要員を志願したおかげで、5ヶ月も訓練を受けたのに・・・

船長「到達時点は100年後 激しいショックを覚悟してもらいたい」


すべては「都市」のせいだった
人口集中と、大人口ゆえに、さらに多くの人間を呼び寄せ続け
ほんとうの空はなく、全体がドームに覆われ、暴風雨や、寒さ暑さから解放された
仕事は自動機械に代行され、世界のほとんどの人口が、20数個の巨大都市に吸収された

ザグバンダが現れ始めたのはその頃だ

物好きな探検者が、野性に還りつつある森の中で、奇妙な生物を目撃したのが最初だ
人間のようだが、それは宇宙服のようなもので身を包んでいるに違いないと分かった
彼らが都市の周りをうろつくようになるまで、その後2ヶ月もかからなかった

彼らは、都市の外に出たがらない人間の習性を熟知していて、大量のロボットで都市を破壊しはじめた
次々と都市が完全破壊される間、必死に対策を考えたが、敵の科学力はヒトのレヴェルをはるかに超えている

ついに、未来への逃亡、移住案が出された
それは技術としてはまだ不完全だった 過去へ逆行する方法は解明されていなかったのだ

人々は、装置の限界である3000年先に飛び立つため、戦闘部隊が編成された
タキタらは、各都市ごとに編成された、人類最初の時間戦士だった

船長のクリハラ「我々は時間とともに必然的に空間移動をともない、アメリカ大陸を目指すことになっている」


タキタは、いつでも船の本体から離れて飛行できる小型機のある席に座る
反射神経を買われて、この偵察機を任された


とてつもないショック後、立体テレビでしか見たことのない海が、スクリーンいっぱいに広がっていた

船長「半径50km内を調べてみてくれ」


タキタが偵察機で飛び立って、しばらくして物体探知装置が短く鳴った
所定コースの、母船から一番遠い地点に到達した

「こちら偵察機、ただいまから戻ります」

応答がない 母船はどこかに消えてしまっていた


タキタは生まれて初めての孤独感を経験した
人口が密集した都市に育ち、過密に慣れ、過密でなければ落ち着かない彼にとって
それは、形容しがたい恐怖だった

彼は針路をアメリカ大陸にとった そこで母船と会えるのではないか
単独で跳時力を持たない偵察機は、ここに置き去りにされてしまう

また探知装置が鳴った 銀色の卵形をした未知の飛行体が4つ接近してきた
記憶にない形ということは、ザグバンダだと意味している
タキタは逃げるが、相手の機はタキタのよりずっと大きなスピードを出すことができた


目の前に巨大ドームが見えた
都市に人がいなくても、まだ放棄されて100年にしかならない
なんとか彼1人くらい養う施設は残っているかもしれない

ザグバンダが充満していたら、与えられた使命どおり、1人でも多くやっつけて
未来に跳んだ人々の安全を祈り、最後まで戦って死ぬだけだ


機を降りると、下は草だった
訓練の際に、何度か都市の外を歩かされたが、この感触はいまだ好きになれなかった
ここには都市の生物館で飼われているのではない野生の生物がいるにちがいない

悲鳴をあげて膝をついた 風だった
彼は大声をあげて笑い出した これが時間戦士なのか?


進行方向から明るい笑い声が響いてきた
5、6歳の少女たちが光をまとい、飛んでいるのが見えた
銃を構えたが、これほど美しい存在を傷つける気になれなかった

1人の少女が、軽く手をあげて、外殻のほうへ振ってみせた ついてこいということらしい
ドームへの巨大な連絡口に着く

都市は生きているのだ! そればかりではない そこには人々が忙しく行き来していた
そうか! この都市は、ザグバンダに征服され、人間は奴隷にされているのだ
ザグバンダが人のかたちになっているのだ 頭上の少女たちもその一味なのだ!

「そんな恰好をしていても騙されないぞ!」

超音波銃を撃つと、少女を包む微光がかすかに揺らいだだけだった
「助けてくれ!」と叫んでも、人々はだれも見ようともしない
少女たちだけでなく、2、3人の男が長い棒をもって追いかけてくる

「なんとか言え!」

彼は、1人の胸をつくと、相手はバランスを崩し、そのままベルトの外に倒れて叩きつけられたが
ジャンと金属音がした ロボットだったのだ

市民の全員がロボット? この巨大都市にいる人間はタキタ一人なのだ
もう心の平衡さえ失っていたが、細い路地に逃げ込む
後ろを見ると、ザグバンダらは一定の距離をおいてついてくるだけである
その顔に緊張はなく柔和で、少女にいたってはゲームを楽しんでいるような表情だ

「古代人よ もう抵抗はやめなさい」

タキタは少女に抱えられ、光のベールが包み込むのを感じていた


意識が戻ると、何かがやわらかく彼の筋肉をもみほぐしている
音楽も聴こえ、とても気持ちがいい
周りは一面にまぶしいミルク色で、体はその中に漂っている

ここに未練はあったが、なんとか脱出しなければならない
そう考えると、重さがもどり地上に立った

人工の光ではない、生の太陽光線が彼を包んだ
足元は草が一面に生える恐ろしく広い草原だった

「元気を取り戻したかね?」

その時に気づいたが、タキタは素っ裸だった
男は自分たちと同じ半透明の服とベルトを投げてよこした

「古代人は、他人に裸を見られると恥ずかしがる習慣があったと聞いていたが事実だったんだな
 君も飛ぶんだ 飛ぼうと思えば、ベルトの重力コントロール装置が思考と同調して浮き上がる

 さあ、行こう これから君がどうするか、そのためのデータを君に与えるのだ
 このレジャーゾーンにあるデータ供与機は小型だが、けっこう役に立っている」


3本の脚に支えられた金色の巨大な球体の中にいくつも穴があいていて、人々が出入りしている

「穴に入って、イスに座れば、君の思考は自動的に捉えられ、それに対するデータが与えられる
 尋ねたいだけ尋ねて、これからどうするか、考えればいい
 君のようなケースは、ほかにいくつもあるんだ」


席に座ると“質問を待つ”と頭に直接話しかけられる
タキタは質問を浴びせ続けた

“まず最初に、ザグバンダという侵略者は存在しない
 あなたがそう呼ぶのは、もとの時代より2万年未来の人類だ
 都市を破壊するのにロボットを使ったのだ”

“なぜ未来の人類がそんなことをしたのだ?”

“1つは、あなたがたが、過去に侵略者から逃れようと3000年の跳時をした記録があったため
 もう1つは、都市という温室でしか生きられなくなった人類に、もう一度活力を与えるため”

“そんなにしてまで僕らを追い出した未来人類は、この3000年どうしているんだ?”

“レジャー用に使っている 彼らにとってその3000年は休暇を過ごす時域なのだ
 彼らは、あらゆる時域を自動パトロールさせて、ここの平和を守っている
 旧型のタイムマシンがこの時域に入ると、あなた方の3000年先へ跳べるよう自動的に送っている”


真相を知らされて、すでに1週間が経っていた


「君は、このレジャーゾーンで思いのまま遊び暮らして一生を送ることもできる
 あの体力回復用装置を常用すれば寿命もうんと延びるしね

 でなければ、我々の本来の世界、君たちの時代から2万年先で暮らすこともできる
 忙しいが活気に満ちた時代だ

 もっと先の時代でもいい 人類が宇宙の広い範囲を征服した頃でもいい」

「僕の気持ちはもう決まっています
 他の、僕と同じケースの人々がどう決断したかは知りませんが
 僕は仲間のもとへ戻ります つまり、僕たちの未来の目的の時点です」

「なぜだ? すべてをやり直すんだぞ 辛い時代だ 後悔するに決まっている」

「たぶん辛いでしょう でも、いいんです
 ここは快適で素晴らしいと思います
 しかし、僕はやはり、仲間と一緒に苦しみながら、立て直すほうを選びたいんです」

男は傷つけられた表情になり、少女たちもザワザワしはじめた
男の次の言葉を聞いた時、タキタは、この放浪を通じて最初の勝利感を味わった

「わからない なぜ、こんないい時代に背を向けて、苦しい時代に帰ろうとするのだ?
 しかも、1人の例外もないのは、どういうわけなのだ?」

タキタは微笑し、口の中で言った
「それはたぶん、ほんとうの人間とは、そういうものだからですよ」

(私なら、理想郷みたいなところにずっといたいな 新しい友だちも出来るかもしれないし
 でも、大勢の人間ロボットは要るの? 未来人のために働くなら、別に無表情な人型でなくてもいいだろうに



【真鍋博解説 内容抜粋メモ】

(眉村氏との電話の会話形式で書かれている これはすべて事実なのだろうか? 解説用の架空の電話か?

眉村氏は、東京にいる時はいつもヒルトップホテルに1泊する
月火は東京、水木は大阪、金土は神戸
東京では週刊誌、金土はラジオとテレビに出演、という多忙さ

ラジオでは、毎週4~5枚の原稿を書いて読む
番組内でテーマを出されて、次週までに書くという企画

「この間、小川宏ショーに出てたでしょう 眉村さんのお喋りには感心しました」

「書くと読むのは大違いですね まあ、いろいろ実験してるんです
 僕は感覚をできるだけオープンにしたい
 テレビもラジオ、週刊誌も、僕にはリズムなんです」

『まぼろしのペンフレンド』の解説を引き受けたが、困っている旨を伝えると
「よろしくお願いします」と上手くかわされてしまう

「うちにも高一の子どもがいまして、
“この本売れるよ 翻訳してアメリカかイギリスで出したらいい
 日本ではフランケンシュタインやドラキュラをお化けみたいに怖がるが
 向こうでは、同じ人間、ゴーストを怖がる”なんて言うんですよ

 何が怖いって、自分と同じ人間がいるなんて一番怖いよなあ」

「これからも若者を対象にした作品書きますよ そしてリズムをバイバイします」

電話を切ってから、妻と話す解説者

妻「今のほんとの眉村さん? ひょっとすると眉村さんのロボットじゃない?」

解説者
「眉村さんが録画のテレビを見ながら原稿を書いていたとしたら、テレビの眉村さんがロボットだよ
 DJの声もロボット 留守番電話の声も、、、
 考えてみると、今の生活は知らず知らずのうちにロボット性を帯びているよ」

(なるほど ほんとにそうかも



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