原作:長谷川孝治『なななのか』
監督・脚本:大林宣彦
出演:
品川徹 鈴木光男 妻・真樹子
寺島咲 鈴木カンナ 孫
左時枝 田中英子 光男の妹
村田雄浩 鈴木冬樹
山崎紘菜 鈴木かさね
松重豊 鈴木春彦 冬樹の弟
柴山智加 鈴木節子 妻
娘・靖子
常盤貴子 清水信子
大久保運 井上弘樹 住職
斉藤とも子 井上百合子 妻
窪塚俊介 鈴木秋人 カンナの兄
原田夏希 高橋良子
伊藤孝雄 大野國朗
安達祐実 山中綾野
相澤一成 若杉稔 医師 弟子
小磯勝弥 中西安志 医師 弟子
小笠原真理子 小佐田留美/林崎敏江
根岸季衣 キオスクのおばさん
パスカルズ 野の音楽隊
内田周作 光男(青春時代)
細山田隆人 大野(青春時代)
猪股南 英子(少女時代)
こないだ見た大林監督のドキュメンタリーで
真っ向から戦争映画は撮らなかったと言っていたけれども
この作品は素晴らしい反戦映画だ
・「青春は戦争の消耗品ではない 映画作家 大林宣彦の遺言」
今作も同様に、自然風景と、合成が混じったフシギな撮り方をしている
セリフと口元が微妙にズレてるのも、角川映画時代から同じ
▼あらすじ(ネタバレ注意
▼第1章 ひとつの、死から。
2013.3.8 北海道 芦別市
元病院だった「星降る文化堂」に帰る看護師のカンナ
ガタタンが好きな患者が亡くなったと話す
祖父:好きなものは痛い
祖父・鈴木光男(92)祖父は倒れていて救急車を呼ぶ
祖父の弟子で内科の若杉稔を呼ぶ
傍らには中原中也の本がある 「夏の日の歌」
3.11
「自分の死を邪魔されたくない」と言っていた祖父
祖父は酸素マスクしてるのに喋ってる
若杉:今日が峠だろうな
▼第2章 それぞれの帰郷。
家族に連絡をとる田中英子(光男の妹)が来る
光男は町医者をしていて、息子2人、妻・真樹子も亡くし、孫が4人いる 芦別の夕陽が好きだった
大学生かさね 父・冬樹が来る 妻はがんで亡くなった
カンナの両親は事故で亡くなって、孫ばかりが残った
鈴木秋人が来る カサネはアキトが好き
祖父:
生きているということは、少しずつ殺されていくことなのだ
私のようにとっくに死んだ人間もおるが
清水信子が来る
カンナ:やっぱり帰ってきましたか
光男は息を引き取った
楽団が通る
祖父と信子の腕時計は止まっている
ノブコは病院で看護師をしていた
同僚の医師・中西は首を吊って死んだと聞く
▼第3章 通夜の客。
祖父:
葬儀はできるだけ簡素に お経も般若心経だけでいい 私はもっと寂しいんだから
生きるとは寂しいものだ だが寂しさに向き合っているほうが寂しくないぞ
生きることはコーヒーのように美味い
グラマン敵機のレコード 当時は戦闘機の音を覚えて逃げ方が分かったと話すエイコ
(戦闘機のレコード?! そんなものを作って、売ってたの???
エイコ:ガタタンは芦別名物 敗戦後の食べ物 中国から伝わってきたとか
祖父:他国の文化を取り入れて発展してきたんだなニッポンは
カンナ:じいちゃん、この家で死にたかったんだね ごめんなさい
兄に泣きすがるエイコ
▼第4章 火葬場にて。
永承寺の住職・井上弘樹は冬樹の幼馴染?
春彦(冬樹の弟)と妻・節子がやっと来る
初七日も家のこともカンナがやるといい、カサネとノブコも手伝うという
ミツオ:長生きするんだよエイコは
▼第5章 続く朝。
玄関には家族の昔の靴を全部残してある
「モノは大切に」というのが祖父の口癖
▼第6章 古里の物語。
カサネはアキトの故郷を自転車で回る
芦別炭鉱の露天掘り
朝鮮から渡ってきた炭鉱労働者が大勢暮らしていた
カンナとアキトは遺骨発掘調査に参加した
慰霊碑 発展のために大勢が犠牲になった
患者:私、タバコを1ミリにしたんですよ
祖父:
同じだ 薄めて吸っても敵は敵だ(自分も吸ってる
中原中也とはたいしたものだ
私は長くここに居りすぎました
この人は命に歯止めをかけた 潔い
カサネ:歯止め?
カンナ:物事の行き過ぎや、悪化を食い止めるってこと
カサネ:放っときゃ、なんでも行き過ぎるよね
北海道にも泊原発があるのか
▼第7章 同行二人。
発掘調査では、韓国から来た遺族が泣きながら♪アリラン と歌う
アキトの知人・高橋良子は、福島の南相馬から来た
良子:今は普通でいられるのが嬉しいです
ほとんど家に寄り付かないアキトは養蜂家になると言う
「家の中では迷子になる」
▼第8章 この家の秘密。
カンナ:
祖父が病院を文化堂にした 芦別は星のふるさとだから
普通のものが戦争が焼けてしまったから一番大切だって
ノブコ:
鈴木病院で初めてちゃんとしたコーヒーを飲んだ
樺太・塔路の郵便貯金の証書を預かって とカンナに頼む
ノブコの愛読書も中也
(本人が“簡素にして”と頼んでも、親族の誰かが言い出すとこういうことになっちゃうのね・・・
▼第9章 初なのか 談義。
葬儀後は酒が入って大騒ぎになり、「大東亜戦争」の話になる
「ぶっ殺したって終わらないんだ!」
ミツオの遺影は、エイコが撮った若い頃の写真にした
「内地の人から見れば、北海道もシベリアも同じだったのよ」
ミツオが樺太に渡ったのは8月15日の朝 樺太はまだ戦争が続いてた
ソ連軍の空襲で炭鉱の町は襲撃され、集団自殺した者も多い
「負けたことさえ知らなかった 伝えてこなかったんですよ、この国は」
「私たちが着るビキニは、太平洋のビキニ環礁で水爆実験をして、第五福竜丸というマグロ船が被爆した」
第五福竜丸展示館
「ピースサインもヴィクトリーのVサイン 勝たなきゃ戦争は終わらない」
「樺太はロシアとアメリカに分かれて、大日本帝国は四分割されて、公用語は英語になると言われた」
「つまり、この島全部アメリカのものなんだよ」
「メッチェン ドイツ語 処女の意味 英語は敵国語で禁止された」
大野國朗(画家)と話す祖父
ミツオ:
人間は線引きが好きだね
線を引くから戦争が始まるのか、戦争が終わったから線を引くのか
立体を線にするなんて無礼ではないか
血はあふれ出る命 線ではけして描けん
大野:アヤノは僕のすべてだった 愛とは血を流すことか!
春彦:僕の個人的な意見では少し原発を止めたほうがいいと思ってる
冬樹:少し不景気になるぞ、世の中 北海道の冬を暖房なしで暮らせるか?
春彦:
国から節電要請があった 原発じゃなきゃまた石炭を掘らなきゃならない
でも、僕らが変えなきゃ、未来は変わらない
カサネ:しかし終わらないわね、葬式も原発も
エイコ:稚内に来る? 樺太が見えるわよ
カサネ:戦争に負けて取られたけどね
エイコ:取ったり取られたりが戦争さ そのたんびにヒトは死ぬ
「広島と長崎の次は札幌だろうってことになって
それで芦別に疎開してきた 風評だったかもしれないけどみんな信じてた
北海道が空襲を受けたのは7月14日と15日
函館などが大きな打撃を受けてたくさん人が死にました」
「芦別でもB29を見た 敗戦後、救援物資を運んできた 建物に直撃したりして」
▼第10章 夏の日の歌。
小佐田留美は、子どもを産んで出血多量で亡くなった
留美:私はなぜ死ぬのでしょう? 動かない 夏 青い空 中也の詩だった
留美の妹・林崎敏江と、その時の娘・小佐田みちこも来る
ミツオ:君もきっと誰か大切な人とつながってるんだよ
節子:あ、清水信子だ 幽霊に会いました
▼第11章 ひとは、さ迷う。
エイコ:
塔路に大野がいて、ミツオは帰りたくなかったが、結局帰った
結婚はしたくなかったろうけど、家を継ぐため、昔は自分の意思はなかった
戦争もそうよね
節子:信子さん、あなた、私を知ってますわよね?
信子は昔使っていた屋根裏部屋に行く
「私の絵、ここにあったのね 18歳の誕生日に描き始めた」
祖父は、カンナには硬貨をあげた 「君の未来のために」
「男の子は何ももらえない 失うばかりだ」
信子:なななのかの後は彷徨わない
▼第12章 この家を、出る
アキトの最初の家出 「お母さんに会いに行く」とメモを残した
少年は、秋田までの切符を買うが電車には乗らなかった
アヤノの絵を描き終えたミツオ
「アヤノ、とうとうお前との同行二人は終わるのか」
信子が病院を去る時、クルマで送るという中西
信子:殺されているの私の心は
中西:君は誰か死んだ人の心の中に生きているんじゃないのか?!
中西は失恋のために自殺した
滝川へ向かう信子
ホームで福島出身のおまんじゅう売りのおばさんに会い
「どこかで会ってはいないかい?」と問われる
16歳で病院に来た信子
ミツオ:同行二人 こうして2人で旅に出ましょう
信子:
私は信子と呼ばれたことがなかった アキトくん以外
私はあなたの記憶で出来ていた でもそれで充分幸せだった
▼第13章 過去。 1945年・夏。
ミツオは自分の過去を話す
君(アヤノ)を樺太から連れて来るんじゃなかった
でも、馬鹿なことを平気でやっちまうのが青春、あるいは恋というものだろう
8.15 塔路に向かっていた2人
8.16 ソ連が町を焼き尽くしていた
アヤノ:あなたも絵を描きますか?
大野はアヤノを描いていた
大野と知り合ったのは大学のサークル
アヤノ(16歳 大野の許婚)は中也が好き
大野がアヤノを子ども扱いしていることにイラつくミツオ
アヤノ:科学の歯止めはどこにあります?
大野:兵器に歯止めはない
ミツオ:
大野はアヤノを絵に描いた 僕は描かなかった それは嫉妬だった
戦局は悪化 大野は戦地に赴いた
日本は無条件降伏したと知らないまま樺太にはまだまだ大勢いた
芸術は自由だ
絵を描くのは、その人を自分のものにしたいという欲望だ
大野の郵便貯金の通帳があり、名義はミツオ 死ぬつもりだ!
僕が絵を描くなら何も身につけないで欲しい
23人の看護婦は、ソ連軍侵攻で青酸カリを飲み、
致死量に足りず、カミソリを手首にあて出血死した
樺太中でこういう悲劇が起きていた
大野の描いた絵は燃える ミツオは爆音で大けがをして硬貨を拾う
この時以来止まった時計
レイプされたアヤノ スコップでロシア兵を夢中で殺したミツオ
アヤノ:私も殺してください
青い空 動かない 夏 真昼
それが僕の青春だった
(ミツオは信子にアヤノの姿を投影していたのか?涙
▼第14章 そして、現在
勤め先の病院まで随分歩く 丘でエイコと話す
エイコは、兄に恋していたが、別の男性と15歳で結婚した
夫は炭鉱事故ですぐに死んでしまった
これは昔の芦別だって 赤い血の河の絵を描いていたミツオ
カナダからも大勢労働者が来て、「カナディアンワールド公園」には赤毛のアンの家もある!?
石炭を掘りつくして閉鎖 観光地になった
文化を壊して、お金にかえてたの 国中が
芦別には7万人いたけど、今は1万人
什器の進歩でまだ石炭を掘ってる
佐藤伝次郎が来て、開拓が始まり、大勢移住してきた
「巨人の原爆打線」
原爆の恐ろしさをアメリカも誰も教えなかったから
原爆の威力だけに憧れてそんな名前を付けたんだって
「日本だって原爆を開発してたんだぞ 相当優秀だったらしい」
「私は絶対に反対ですよ、原子力」
「あの当時は、まず結婚して、それから好きになる」
アキトが絵を観た時のこと
服を探して祖父の部屋に入ると、ミツオが裸体のノブコを絵に描いているのを見てしまう
「その時から僕はこの家で迷子になった」
節子は信子と話す
節子:
憎しみぬこうとしても無理だった 成績も良くて、美しいあなたが大好きだった
私には美人だという自覚があって、あなたにはそれがなかった
どうして昔のままでいられるの?
あなたは一体誰?! 私は今でも自意識の中にいる
でもあなたがいるのは幻想の中よ
16の時、滝川の駅で死んだわよね?
詩集に夢中で失神して、ホームに落ちたってまんじゅう売りのおばさんが言ってた
私、ダンサーに恋しているの 生きるってそういうことよ!
▼第15章 なななのか。
「死んだり生きたり、それが誰かの代わりだったり奇妙なものだね」
カンナ:
雪の日なんかここ(墓地)に来ると、みんな綿帽子かぶって仲良しって感じで
エイコ:アヤノさんはどこ? でもきっといるわね、誰かが代わりに
山桜の歌 看護師さんたちが死を決意した時に歌った
ミツオが死ぬ間際につぶやいたのは、中也の「臨終」
「私たちの誰もがこのなななのかのために生まれてきたみたい」
「人間っていいね 生きてるっていいね」
「山桜って葉と花がいっしょに咲くのよね」
アキノが家に帰って鳩を持ち帰るのを見たカサネ
春彦:
原発を辞めるよ
北海道の再生可能エネルギーの開発はすごいんだ
風力発電、太陽光、地熱など、2050年までに北海道を
日本最前エネルギー供給基地にするという構想もある
冬樹:
樺太の通帳をおろしたら200円ちょっと
あの頃なら世帯も持てるひと財産だが
春彦:
オレたち変わらなきゃならんね あの3.11を体験した以上
藪から棒に価値観をひっくり返されたからね
ほっときゃ藪から棒になるからねえ
「なななのかが終わったら迷うことなし」
アキトの伝書鳩が良子の手紙を持ってきたから南相馬に行くという
良子は親と一緒に福島に戻る決心をした
伝書鳩の手紙には「放っとかないで」と書いてあった
アキト:
今の東日本みんなの気持ちだろう
鳩は僕らが汚しちまったこのニッポンの空を飛んできたんだぜ
カサネ:
時は止まってくれないね 髪は長くなって、良子さんのシュシュ着けてあげる
大野:僕の家族だよ お前が殺したソ連兵の手に握られていた
家に帰ればみんな普通の人間だ
樺太では戦争が始まる前は、日本人もロシア人も仲良く暮らしていたんだ
もともとオレは死にぞこないの失踪者だし、日本国籍を失っていたしな
もう二度と戦争などなきゃよいがな!
葛西善蔵 子を連れて哀しき父・・・
人間は文学通りに生きるだろう
葛西善蔵は広津和郎に死の間際、「これまでの不義理を許してくれ」と問うたが
広津は「僕は君を許さない」と答えた
あの絵はどこいっちまったんだろうな
アヤノは何のために生まれて、何のために死んだんだろう
でも、たしかにいたんだアヤノは
井上:みんな誰かの生まれ変わり輪廻転生ですな
百合子:私はもうけして迷子にはなりません
▼第16章 再生のとき。
家に来る信子 ミツオの部屋に入る
ミツオ:
帰ってきたか お前はよみがえりだった
この絵のやつ、オレの本性をむき出しにしおった
これが戦争だ 忘れてしまいたい だがそうしてはならん
信子:
私はこれからこの絵を本来の私の姿に戻してみせます
そのために帰ってきました
ミツオ:我々もそろそろ、それぞれの場所へ戻ろうか
信子:
ミツオさんが24歳、私が16歳だったあの夏の日に
時が流れ始めた未来に向かって
後のことは後に続く人に任せましょう
レコードを止める
ミツオ:とりかえしがつかぬな
おじいちゃんの戦争は9月5日に終わった
「明日を生きる子どもらよ 過去から学べ 旅立てよ
未来は君のてのひらの中にある」
かつて、日本に戦争があった。
そしてもう二度と、日本に戦争があってはならない。
そのために、わたしらは、此処に生きる。
そこに ひとがいること、
それだけが、古里の条件である。
*
鈴木評詞君の遺児、鈴木日苗さん(17)が、
今は亡きお祖父ちゃまのことを絵に描きました。
死ぬと、なんにも無くなるから、絵に描けば、なにかが残ると思って。
「遺遺」
監督・脚本:大林宣彦
出演:
品川徹 鈴木光男 妻・真樹子
寺島咲 鈴木カンナ 孫
左時枝 田中英子 光男の妹
村田雄浩 鈴木冬樹
山崎紘菜 鈴木かさね
松重豊 鈴木春彦 冬樹の弟
柴山智加 鈴木節子 妻
娘・靖子
常盤貴子 清水信子
大久保運 井上弘樹 住職
斉藤とも子 井上百合子 妻
窪塚俊介 鈴木秋人 カンナの兄
原田夏希 高橋良子
伊藤孝雄 大野國朗
安達祐実 山中綾野
相澤一成 若杉稔 医師 弟子
小磯勝弥 中西安志 医師 弟子
小笠原真理子 小佐田留美/林崎敏江
根岸季衣 キオスクのおばさん
パスカルズ 野の音楽隊
内田周作 光男(青春時代)
細山田隆人 大野(青春時代)
猪股南 英子(少女時代)
こないだ見た大林監督のドキュメンタリーで
真っ向から戦争映画は撮らなかったと言っていたけれども
この作品は素晴らしい反戦映画だ
・「青春は戦争の消耗品ではない 映画作家 大林宣彦の遺言」
今作も同様に、自然風景と、合成が混じったフシギな撮り方をしている
セリフと口元が微妙にズレてるのも、角川映画時代から同じ
▼あらすじ(ネタバレ注意
▼第1章 ひとつの、死から。
2013.3.8 北海道 芦別市
元病院だった「星降る文化堂」に帰る看護師のカンナ
ガタタンが好きな患者が亡くなったと話す
祖父:好きなものは痛い
祖父・鈴木光男(92)祖父は倒れていて救急車を呼ぶ
祖父の弟子で内科の若杉稔を呼ぶ
傍らには中原中也の本がある 「夏の日の歌」
3.11
「自分の死を邪魔されたくない」と言っていた祖父
祖父は酸素マスクしてるのに喋ってる
若杉:今日が峠だろうな
▼第2章 それぞれの帰郷。
家族に連絡をとる田中英子(光男の妹)が来る
光男は町医者をしていて、息子2人、妻・真樹子も亡くし、孫が4人いる 芦別の夕陽が好きだった
大学生かさね 父・冬樹が来る 妻はがんで亡くなった
カンナの両親は事故で亡くなって、孫ばかりが残った
鈴木秋人が来る カサネはアキトが好き
祖父:
生きているということは、少しずつ殺されていくことなのだ
私のようにとっくに死んだ人間もおるが
清水信子が来る
カンナ:やっぱり帰ってきましたか
光男は息を引き取った
楽団が通る
祖父と信子の腕時計は止まっている
ノブコは病院で看護師をしていた
同僚の医師・中西は首を吊って死んだと聞く
▼第3章 通夜の客。
祖父:
葬儀はできるだけ簡素に お経も般若心経だけでいい 私はもっと寂しいんだから
生きるとは寂しいものだ だが寂しさに向き合っているほうが寂しくないぞ
生きることはコーヒーのように美味い
グラマン敵機のレコード 当時は戦闘機の音を覚えて逃げ方が分かったと話すエイコ
(戦闘機のレコード?! そんなものを作って、売ってたの???
エイコ:ガタタンは芦別名物 敗戦後の食べ物 中国から伝わってきたとか
祖父:他国の文化を取り入れて発展してきたんだなニッポンは
カンナ:じいちゃん、この家で死にたかったんだね ごめんなさい
兄に泣きすがるエイコ
▼第4章 火葬場にて。
永承寺の住職・井上弘樹は冬樹の幼馴染?
春彦(冬樹の弟)と妻・節子がやっと来る
初七日も家のこともカンナがやるといい、カサネとノブコも手伝うという
ミツオ:長生きするんだよエイコは
▼第5章 続く朝。
玄関には家族の昔の靴を全部残してある
「モノは大切に」というのが祖父の口癖
▼第6章 古里の物語。
カサネはアキトの故郷を自転車で回る
芦別炭鉱の露天掘り
朝鮮から渡ってきた炭鉱労働者が大勢暮らしていた
カンナとアキトは遺骨発掘調査に参加した
慰霊碑 発展のために大勢が犠牲になった
患者:私、タバコを1ミリにしたんですよ
祖父:
同じだ 薄めて吸っても敵は敵だ(自分も吸ってる
中原中也とはたいしたものだ
私は長くここに居りすぎました
この人は命に歯止めをかけた 潔い
カサネ:歯止め?
カンナ:物事の行き過ぎや、悪化を食い止めるってこと
カサネ:放っときゃ、なんでも行き過ぎるよね
北海道にも泊原発があるのか
▼第7章 同行二人。
発掘調査では、韓国から来た遺族が泣きながら♪アリラン と歌う
アキトの知人・高橋良子は、福島の南相馬から来た
良子:今は普通でいられるのが嬉しいです
ほとんど家に寄り付かないアキトは養蜂家になると言う
「家の中では迷子になる」
▼第8章 この家の秘密。
カンナ:
祖父が病院を文化堂にした 芦別は星のふるさとだから
普通のものが戦争が焼けてしまったから一番大切だって
ノブコ:
鈴木病院で初めてちゃんとしたコーヒーを飲んだ
樺太・塔路の郵便貯金の証書を預かって とカンナに頼む
ノブコの愛読書も中也
(本人が“簡素にして”と頼んでも、親族の誰かが言い出すとこういうことになっちゃうのね・・・
▼第9章 初なのか 談義。
葬儀後は酒が入って大騒ぎになり、「大東亜戦争」の話になる
「ぶっ殺したって終わらないんだ!」
ミツオの遺影は、エイコが撮った若い頃の写真にした
「内地の人から見れば、北海道もシベリアも同じだったのよ」
ミツオが樺太に渡ったのは8月15日の朝 樺太はまだ戦争が続いてた
ソ連軍の空襲で炭鉱の町は襲撃され、集団自殺した者も多い
「負けたことさえ知らなかった 伝えてこなかったんですよ、この国は」
「私たちが着るビキニは、太平洋のビキニ環礁で水爆実験をして、第五福竜丸というマグロ船が被爆した」
第五福竜丸展示館
「ピースサインもヴィクトリーのVサイン 勝たなきゃ戦争は終わらない」
「樺太はロシアとアメリカに分かれて、大日本帝国は四分割されて、公用語は英語になると言われた」
「つまり、この島全部アメリカのものなんだよ」
「メッチェン ドイツ語 処女の意味 英語は敵国語で禁止された」
大野國朗(画家)と話す祖父
ミツオ:
人間は線引きが好きだね
線を引くから戦争が始まるのか、戦争が終わったから線を引くのか
立体を線にするなんて無礼ではないか
血はあふれ出る命 線ではけして描けん
大野:アヤノは僕のすべてだった 愛とは血を流すことか!
春彦:僕の個人的な意見では少し原発を止めたほうがいいと思ってる
冬樹:少し不景気になるぞ、世の中 北海道の冬を暖房なしで暮らせるか?
春彦:
国から節電要請があった 原発じゃなきゃまた石炭を掘らなきゃならない
でも、僕らが変えなきゃ、未来は変わらない
カサネ:しかし終わらないわね、葬式も原発も
エイコ:稚内に来る? 樺太が見えるわよ
カサネ:戦争に負けて取られたけどね
エイコ:取ったり取られたりが戦争さ そのたんびにヒトは死ぬ
「広島と長崎の次は札幌だろうってことになって
それで芦別に疎開してきた 風評だったかもしれないけどみんな信じてた
北海道が空襲を受けたのは7月14日と15日
函館などが大きな打撃を受けてたくさん人が死にました」
「芦別でもB29を見た 敗戦後、救援物資を運んできた 建物に直撃したりして」
▼第10章 夏の日の歌。
小佐田留美は、子どもを産んで出血多量で亡くなった
留美:私はなぜ死ぬのでしょう? 動かない 夏 青い空 中也の詩だった
留美の妹・林崎敏江と、その時の娘・小佐田みちこも来る
ミツオ:君もきっと誰か大切な人とつながってるんだよ
節子:あ、清水信子だ 幽霊に会いました
▼第11章 ひとは、さ迷う。
エイコ:
塔路に大野がいて、ミツオは帰りたくなかったが、結局帰った
結婚はしたくなかったろうけど、家を継ぐため、昔は自分の意思はなかった
戦争もそうよね
節子:信子さん、あなた、私を知ってますわよね?
信子は昔使っていた屋根裏部屋に行く
「私の絵、ここにあったのね 18歳の誕生日に描き始めた」
祖父は、カンナには硬貨をあげた 「君の未来のために」
「男の子は何ももらえない 失うばかりだ」
信子:なななのかの後は彷徨わない
▼第12章 この家を、出る
アキトの最初の家出 「お母さんに会いに行く」とメモを残した
少年は、秋田までの切符を買うが電車には乗らなかった
アヤノの絵を描き終えたミツオ
「アヤノ、とうとうお前との同行二人は終わるのか」
信子が病院を去る時、クルマで送るという中西
信子:殺されているの私の心は
中西:君は誰か死んだ人の心の中に生きているんじゃないのか?!
中西は失恋のために自殺した
滝川へ向かう信子
ホームで福島出身のおまんじゅう売りのおばさんに会い
「どこかで会ってはいないかい?」と問われる
16歳で病院に来た信子
ミツオ:同行二人 こうして2人で旅に出ましょう
信子:
私は信子と呼ばれたことがなかった アキトくん以外
私はあなたの記憶で出来ていた でもそれで充分幸せだった
▼第13章 過去。 1945年・夏。
ミツオは自分の過去を話す
君(アヤノ)を樺太から連れて来るんじゃなかった
でも、馬鹿なことを平気でやっちまうのが青春、あるいは恋というものだろう
8.15 塔路に向かっていた2人
8.16 ソ連が町を焼き尽くしていた
アヤノ:あなたも絵を描きますか?
大野はアヤノを描いていた
大野と知り合ったのは大学のサークル
アヤノ(16歳 大野の許婚)は中也が好き
大野がアヤノを子ども扱いしていることにイラつくミツオ
アヤノ:科学の歯止めはどこにあります?
大野:兵器に歯止めはない
ミツオ:
大野はアヤノを絵に描いた 僕は描かなかった それは嫉妬だった
戦局は悪化 大野は戦地に赴いた
日本は無条件降伏したと知らないまま樺太にはまだまだ大勢いた
芸術は自由だ
絵を描くのは、その人を自分のものにしたいという欲望だ
大野の郵便貯金の通帳があり、名義はミツオ 死ぬつもりだ!
僕が絵を描くなら何も身につけないで欲しい
23人の看護婦は、ソ連軍侵攻で青酸カリを飲み、
致死量に足りず、カミソリを手首にあて出血死した
樺太中でこういう悲劇が起きていた
大野の描いた絵は燃える ミツオは爆音で大けがをして硬貨を拾う
この時以来止まった時計
レイプされたアヤノ スコップでロシア兵を夢中で殺したミツオ
アヤノ:私も殺してください
青い空 動かない 夏 真昼
それが僕の青春だった
(ミツオは信子にアヤノの姿を投影していたのか?涙
▼第14章 そして、現在
勤め先の病院まで随分歩く 丘でエイコと話す
エイコは、兄に恋していたが、別の男性と15歳で結婚した
夫は炭鉱事故ですぐに死んでしまった
これは昔の芦別だって 赤い血の河の絵を描いていたミツオ
カナダからも大勢労働者が来て、「カナディアンワールド公園」には赤毛のアンの家もある!?
石炭を掘りつくして閉鎖 観光地になった
文化を壊して、お金にかえてたの 国中が
芦別には7万人いたけど、今は1万人
什器の進歩でまだ石炭を掘ってる
佐藤伝次郎が来て、開拓が始まり、大勢移住してきた
「巨人の原爆打線」
原爆の恐ろしさをアメリカも誰も教えなかったから
原爆の威力だけに憧れてそんな名前を付けたんだって
「日本だって原爆を開発してたんだぞ 相当優秀だったらしい」
「私は絶対に反対ですよ、原子力」
「あの当時は、まず結婚して、それから好きになる」
アキトが絵を観た時のこと
服を探して祖父の部屋に入ると、ミツオが裸体のノブコを絵に描いているのを見てしまう
「その時から僕はこの家で迷子になった」
節子は信子と話す
節子:
憎しみぬこうとしても無理だった 成績も良くて、美しいあなたが大好きだった
私には美人だという自覚があって、あなたにはそれがなかった
どうして昔のままでいられるの?
あなたは一体誰?! 私は今でも自意識の中にいる
でもあなたがいるのは幻想の中よ
16の時、滝川の駅で死んだわよね?
詩集に夢中で失神して、ホームに落ちたってまんじゅう売りのおばさんが言ってた
私、ダンサーに恋しているの 生きるってそういうことよ!
▼第15章 なななのか。
「死んだり生きたり、それが誰かの代わりだったり奇妙なものだね」
カンナ:
雪の日なんかここ(墓地)に来ると、みんな綿帽子かぶって仲良しって感じで
エイコ:アヤノさんはどこ? でもきっといるわね、誰かが代わりに
山桜の歌 看護師さんたちが死を決意した時に歌った
ミツオが死ぬ間際につぶやいたのは、中也の「臨終」
「私たちの誰もがこのなななのかのために生まれてきたみたい」
「人間っていいね 生きてるっていいね」
「山桜って葉と花がいっしょに咲くのよね」
アキノが家に帰って鳩を持ち帰るのを見たカサネ
春彦:
原発を辞めるよ
北海道の再生可能エネルギーの開発はすごいんだ
風力発電、太陽光、地熱など、2050年までに北海道を
日本最前エネルギー供給基地にするという構想もある
冬樹:
樺太の通帳をおろしたら200円ちょっと
あの頃なら世帯も持てるひと財産だが
春彦:
オレたち変わらなきゃならんね あの3.11を体験した以上
藪から棒に価値観をひっくり返されたからね
ほっときゃ藪から棒になるからねえ
「なななのかが終わったら迷うことなし」
アキトの伝書鳩が良子の手紙を持ってきたから南相馬に行くという
良子は親と一緒に福島に戻る決心をした
伝書鳩の手紙には「放っとかないで」と書いてあった
アキト:
今の東日本みんなの気持ちだろう
鳩は僕らが汚しちまったこのニッポンの空を飛んできたんだぜ
カサネ:
時は止まってくれないね 髪は長くなって、良子さんのシュシュ着けてあげる
大野:僕の家族だよ お前が殺したソ連兵の手に握られていた
家に帰ればみんな普通の人間だ
樺太では戦争が始まる前は、日本人もロシア人も仲良く暮らしていたんだ
もともとオレは死にぞこないの失踪者だし、日本国籍を失っていたしな
もう二度と戦争などなきゃよいがな!
葛西善蔵 子を連れて哀しき父・・・
人間は文学通りに生きるだろう
葛西善蔵は広津和郎に死の間際、「これまでの不義理を許してくれ」と問うたが
広津は「僕は君を許さない」と答えた
あの絵はどこいっちまったんだろうな
アヤノは何のために生まれて、何のために死んだんだろう
でも、たしかにいたんだアヤノは
井上:みんな誰かの生まれ変わり輪廻転生ですな
百合子:私はもうけして迷子にはなりません
▼第16章 再生のとき。
家に来る信子 ミツオの部屋に入る
ミツオ:
帰ってきたか お前はよみがえりだった
この絵のやつ、オレの本性をむき出しにしおった
これが戦争だ 忘れてしまいたい だがそうしてはならん
信子:
私はこれからこの絵を本来の私の姿に戻してみせます
そのために帰ってきました
ミツオ:我々もそろそろ、それぞれの場所へ戻ろうか
信子:
ミツオさんが24歳、私が16歳だったあの夏の日に
時が流れ始めた未来に向かって
後のことは後に続く人に任せましょう
レコードを止める
ミツオ:とりかえしがつかぬな
おじいちゃんの戦争は9月5日に終わった
「明日を生きる子どもらよ 過去から学べ 旅立てよ
未来は君のてのひらの中にある」
かつて、日本に戦争があった。
そしてもう二度と、日本に戦争があってはならない。
そのために、わたしらは、此処に生きる。
そこに ひとがいること、
それだけが、古里の条件である。
*
鈴木評詞君の遺児、鈴木日苗さん(17)が、
今は亡きお祖父ちゃまのことを絵に描きました。
死ぬと、なんにも無くなるから、絵に描けば、なにかが残ると思って。
「遺遺」