■『マングローブの木〜アフリカの海辺を緑の林に』(さ・え・ら書房)
スーザン・L.ロス/文とコラージュ シンディ・トランボア/文 松沢あさか/訳
図書館巡りで見つけた1冊シリーズ。
日常に追われていると、同じ星の上で、さまざまな環境で暮らしている人たちがいるってことを忘れがち。
最近は、こうした現地の様子が分かり易く学べる本にも興味がわいてきた。
温暖化も、紛争も、貧富の差や差別、戦争・平和もぜんぶつながってるんだ。
日系の科学者や団体が、自らの知識、技術、アイデアを駆使して、
「ただお金を寄付するだけの支援」から抜け出して、現地の人たちと一緒に、
自然を守りつつ、暮らしも豊かにしてゆく活動をしていると知って、なんだか嬉しくなった。
これまでも環境破壊の本にたびたび出てきたマングローブを育てることが、
たくさんの貧困で苦しむ人たちを救って、環境も改善してくれるって素晴らしい
スーザンさんの、「筆を一切使わず、ハサミ、ピンセット、デンプン糊などで作る」というコラージュも
話にさらに温かみを加えている
カラフルな色使い、たくさんの素材を巧みに使い分けて、見れば見るほど、その魅力に引き込まれる。
『マングローブ植樹プロジェクト』が、貧しい村を、どう自足できるコミュニティーに変えていったかを描いた1冊。
【内容抜粋メモ】
アフリカ東部の小国エリトリアにハルギゴという貧しい村がある。
村人も、家畜も、いつもお腹を空かせていた。
ここの土地は、雨が降らず、乾ききっていて、草木が育たないため、ヒツジやヤギはやせ細っていた。
だが、ゴードン・サトウ博士は「マングローブを植えれば、家畜たちはふっくらした緑の葉が食べられる」と思いついた
マングローブは、根と葉のはたらきで、塩分を含む水でも成長できる。
種は落ちる前に枝で芽を出す。その芽は、すぐに苗木になる。
その苗木が丈夫に育つ方法を研究したのが『マングローブ植樹プロジェクト』のはじまり。
プロジェクトができて、まず、村の女性たちに“働き口”ができた。
苗木に必要な窒素と燐酸の肥料を詰める仕事や、鉄の棒の柵をそえる仕事。
この柵はマングローブに必要な鉄分を与えてくれる。
ヒツジやヤギは、マングローブを喜んで食べたが、体重が思ったように増えない。
丈夫な子を産むには、たんぱく質が必要。
そこで、マングローブの実、干し魚の粉などを混ぜたエサを与えた。
すると、産まれた子どものために栄養たっぷりのお乳が出る。
村の男たちは、これまで、ヒツジやヤギを草のある遠い場所まで連れて行っていたが、
これからは、ヒツジやヤギは近くでたっぷりエサを食べて、長生きし、群れも増えた。
マングローブの枯れた枝は薪にして、食事の煮炊きに使える
家畜の数が増えたため、子どもたちは前よりずっと健康になった
マングローブの根は、小さな魚、カニ、エビ、カキなどの隠れ場になる。
それらを食べるために大きな魚もやって来る
漁師は、たくさんの魚をとって、売ることも出来るようになった。
ゴードン博士の夢は、世界中にマングローブの林をつくること。
たとえば、アフリカのサハラ砂漠や、南アメリカのアタカマ砂漠。
海水を汲み上げれば、マングローブの林ができる。
そして、そこに住む人たちが豊かになれる。
※マングローブは、世界に100種類以上ある。本書のマングローブは「ヒルギダマシ」という樹木。
************************************
【あとがき抜粋メモ】
ゴードン・H・サトウ博士氏は、第二次世界大戦中の1942年から数年間、砂漠地帯でひもじい体験をした。
日系アメリカ人の収容所に送り込まれ、食料も乏しく、乾いた痩せた土地にトウモロコシを植えた。
後に彼は博士号をとり、細胞生物学者になった。
1980年、初めてエリトリアを訪れたが、当時はエチオピアからの独立を求める内戦が続いていた
1993年、エリトリアは独立したが土地は荒れ果てていた。
博士は、ラクダがマングローブの葉を食べているのに気づき、ヒツジやヤギのエサにもなるのではないかと考えた。
雨期にだけ現れる川が流れ込む海岸にもマングローブは育つことも分かった。
サトウ博士は、アフリカ大陸の北西部の2つの国で『マングローブ植樹プロジェクト』を始めた。
2008年には、モーリタニアでも始めた。大西洋から海水を引いたが、
マングローブの根は、地下の海水まで届くことが分かった。
2010年、モロッコにも2000本のマングローブを植えた。
これをモデルに、世界の大きな砂漠にもマングローブ林を作れると考えている。
世界の貧困、飢餓をなくすためには、大規模な森林作りが効果的で、費用も少なくて済む。
木を植えれば二酸化炭素を出して、温暖化を遅らせ、砂漠化も防げる。
『マンザナール・プロジェクト』というのが、マングローブ植樹活動の正式名称。
マンザナールとは、博士が60年以上前にいた強制収容所の地名。
博士は、この時の経験をプラスに生かしたいと考え、人々に希望を捨てず、逆境に立ち向かうよう呼びかけている。
一方、インド、東南アジア、中央アメリカなどの広大なマングローブ林は、大規模な開発によって激減している。
目先の経済的な理由で、環境を破壊するのはカンタンだが、修復するのはとても大変で時間がかかる。
【琉球大学名誉教授 馬場繁幸さんあとがき抜粋メモ】
日本の亜熱帯地域にもマングローブ林は分布している/驚
薩摩半島、奄美群島、沖縄諸島、八重山諸島、屋久島にも!
熱帯を起源とするマングローブの太平洋地域で、最も北に分布しているのが日本。
太平洋戦争の前後まで、とくに西表島のマングローブ林は、帆布、魚網の堅牢性を高める染色のためのタンニンを採ったり、
家を建てる際の垂木、木炭生産等に伐採されていた。
今日では、道路建設や港湾整備で伐採されても、利用を目的とした伐採はされずに保護されている。
(むしろ、道路建設や港湾整備の伐採を止めてほしいな
日本人によるマングローブ植林活動も盛ん。
「マングローブ植林行動計画(ACTMANG)」は、ベトナム、ミャンマーを中心に、
戦争、エビ養殖池建設等で失われたマングローブ林の復旧に取り組んでいる。
NG0の「国際マングローブ生態系協会」の事務所は、国立大学法人琉球大学農学部の中にある。
「国際協力機構(JICA)の要請を受けて「持続可能なマングローブ生態系管理技術」に関する研修を実施し、
2012年までに38カ国から来た119人の研修員を指導した。
「マングローブ図版集」を「国際熱帯木材機関(ITTO)」、「国際連合食糧農業機関(FAO)」、ユネスコなどと
共同で出版するなど、重要な役割を果している。
インド、マレーシアなど、温暖化による海面上昇で水没する危機のある小さな島国のキリバス、ツバルでも行っている。
【参考Webサイト】
「マンザナール・プロジェクト」
「ブループラネット賞」
「ロレックス賞」
「マングローブと生き物たち」
【ブログ内関連記事】
・『世界の野生生物と自然を守る 世界自然保護基金』(ほるぷ出版)
・『ここまできた!環境破壊1 環境ホルモン汚染』(ポプラ社)
スーザン・L.ロス/文とコラージュ シンディ・トランボア/文 松沢あさか/訳
図書館巡りで見つけた1冊シリーズ。
日常に追われていると、同じ星の上で、さまざまな環境で暮らしている人たちがいるってことを忘れがち。
最近は、こうした現地の様子が分かり易く学べる本にも興味がわいてきた。
温暖化も、紛争も、貧富の差や差別、戦争・平和もぜんぶつながってるんだ。
日系の科学者や団体が、自らの知識、技術、アイデアを駆使して、
「ただお金を寄付するだけの支援」から抜け出して、現地の人たちと一緒に、
自然を守りつつ、暮らしも豊かにしてゆく活動をしていると知って、なんだか嬉しくなった。
これまでも環境破壊の本にたびたび出てきたマングローブを育てることが、
たくさんの貧困で苦しむ人たちを救って、環境も改善してくれるって素晴らしい
スーザンさんの、「筆を一切使わず、ハサミ、ピンセット、デンプン糊などで作る」というコラージュも
話にさらに温かみを加えている
カラフルな色使い、たくさんの素材を巧みに使い分けて、見れば見るほど、その魅力に引き込まれる。
『マングローブ植樹プロジェクト』が、貧しい村を、どう自足できるコミュニティーに変えていったかを描いた1冊。
【内容抜粋メモ】
アフリカ東部の小国エリトリアにハルギゴという貧しい村がある。
村人も、家畜も、いつもお腹を空かせていた。
ここの土地は、雨が降らず、乾ききっていて、草木が育たないため、ヒツジやヤギはやせ細っていた。
だが、ゴードン・サトウ博士は「マングローブを植えれば、家畜たちはふっくらした緑の葉が食べられる」と思いついた
マングローブは、根と葉のはたらきで、塩分を含む水でも成長できる。
種は落ちる前に枝で芽を出す。その芽は、すぐに苗木になる。
その苗木が丈夫に育つ方法を研究したのが『マングローブ植樹プロジェクト』のはじまり。
プロジェクトができて、まず、村の女性たちに“働き口”ができた。
苗木に必要な窒素と燐酸の肥料を詰める仕事や、鉄の棒の柵をそえる仕事。
この柵はマングローブに必要な鉄分を与えてくれる。
ヒツジやヤギは、マングローブを喜んで食べたが、体重が思ったように増えない。
丈夫な子を産むには、たんぱく質が必要。
そこで、マングローブの実、干し魚の粉などを混ぜたエサを与えた。
すると、産まれた子どものために栄養たっぷりのお乳が出る。
村の男たちは、これまで、ヒツジやヤギを草のある遠い場所まで連れて行っていたが、
これからは、ヒツジやヤギは近くでたっぷりエサを食べて、長生きし、群れも増えた。
マングローブの枯れた枝は薪にして、食事の煮炊きに使える
家畜の数が増えたため、子どもたちは前よりずっと健康になった
マングローブの根は、小さな魚、カニ、エビ、カキなどの隠れ場になる。
それらを食べるために大きな魚もやって来る
漁師は、たくさんの魚をとって、売ることも出来るようになった。
ゴードン博士の夢は、世界中にマングローブの林をつくること。
たとえば、アフリカのサハラ砂漠や、南アメリカのアタカマ砂漠。
海水を汲み上げれば、マングローブの林ができる。
そして、そこに住む人たちが豊かになれる。
※マングローブは、世界に100種類以上ある。本書のマングローブは「ヒルギダマシ」という樹木。
************************************
【あとがき抜粋メモ】
ゴードン・H・サトウ博士氏は、第二次世界大戦中の1942年から数年間、砂漠地帯でひもじい体験をした。
日系アメリカ人の収容所に送り込まれ、食料も乏しく、乾いた痩せた土地にトウモロコシを植えた。
後に彼は博士号をとり、細胞生物学者になった。
1980年、初めてエリトリアを訪れたが、当時はエチオピアからの独立を求める内戦が続いていた
1993年、エリトリアは独立したが土地は荒れ果てていた。
博士は、ラクダがマングローブの葉を食べているのに気づき、ヒツジやヤギのエサにもなるのではないかと考えた。
雨期にだけ現れる川が流れ込む海岸にもマングローブは育つことも分かった。
サトウ博士は、アフリカ大陸の北西部の2つの国で『マングローブ植樹プロジェクト』を始めた。
2008年には、モーリタニアでも始めた。大西洋から海水を引いたが、
マングローブの根は、地下の海水まで届くことが分かった。
2010年、モロッコにも2000本のマングローブを植えた。
これをモデルに、世界の大きな砂漠にもマングローブ林を作れると考えている。
世界の貧困、飢餓をなくすためには、大規模な森林作りが効果的で、費用も少なくて済む。
木を植えれば二酸化炭素を出して、温暖化を遅らせ、砂漠化も防げる。
『マンザナール・プロジェクト』というのが、マングローブ植樹活動の正式名称。
マンザナールとは、博士が60年以上前にいた強制収容所の地名。
博士は、この時の経験をプラスに生かしたいと考え、人々に希望を捨てず、逆境に立ち向かうよう呼びかけている。
一方、インド、東南アジア、中央アメリカなどの広大なマングローブ林は、大規模な開発によって激減している。
目先の経済的な理由で、環境を破壊するのはカンタンだが、修復するのはとても大変で時間がかかる。
【琉球大学名誉教授 馬場繁幸さんあとがき抜粋メモ】
日本の亜熱帯地域にもマングローブ林は分布している/驚
薩摩半島、奄美群島、沖縄諸島、八重山諸島、屋久島にも!
熱帯を起源とするマングローブの太平洋地域で、最も北に分布しているのが日本。
太平洋戦争の前後まで、とくに西表島のマングローブ林は、帆布、魚網の堅牢性を高める染色のためのタンニンを採ったり、
家を建てる際の垂木、木炭生産等に伐採されていた。
今日では、道路建設や港湾整備で伐採されても、利用を目的とした伐採はされずに保護されている。
(むしろ、道路建設や港湾整備の伐採を止めてほしいな
日本人によるマングローブ植林活動も盛ん。
「マングローブ植林行動計画(ACTMANG)」は、ベトナム、ミャンマーを中心に、
戦争、エビ養殖池建設等で失われたマングローブ林の復旧に取り組んでいる。
NG0の「国際マングローブ生態系協会」の事務所は、国立大学法人琉球大学農学部の中にある。
「国際協力機構(JICA)の要請を受けて「持続可能なマングローブ生態系管理技術」に関する研修を実施し、
2012年までに38カ国から来た119人の研修員を指導した。
「マングローブ図版集」を「国際熱帯木材機関(ITTO)」、「国際連合食糧農業機関(FAO)」、ユネスコなどと
共同で出版するなど、重要な役割を果している。
インド、マレーシアなど、温暖化による海面上昇で水没する危機のある小さな島国のキリバス、ツバルでも行っている。
【参考Webサイト】
「マンザナール・プロジェクト」
「ブループラネット賞」
「ロレックス賞」
「マングローブと生き物たち」
【ブログ内関連記事】
・『世界の野生生物と自然を守る 世界自然保護基金』(ほるぷ出版)
・『ここまできた!環境破壊1 環境ホルモン汚染』(ポプラ社)