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『日も月も』(1969)@神保町シアター

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『日も月も』(1969)@神保町シアター
原作:川端康成 監督:中村登
出演:岩下志麻、森雅之、久我美子、中山仁、石坂浩二、大空真弓、笠智衆 ほか

「文豪と映画 川端康成 「恋ごころ」の情景」の最終週となった今週。
前回、『女であること』(1958)を観て、3大スターの共演にとろけそうになり、
今作にも、その森雅之、久我美子のほかに、岩下志麻が加わって、これまた豪華 そしてカラーだった!
チラシに書いてあるストーリーを見た感じでは、前回よりは若干暗めなテーマかなぐらいで観たんだけど・・・

これほど不吉で重いとは けれども大変な秀作だった。


▼story
京都光悦寺の茶会に来た父・朝井(森)と娘・松子(岩下)は、高谷幸二(石坂)と思わぬ再会をして、
かつて自分を捨てて巻子(大空)と結婚した恋人・高谷宗広(中山)が喀血して入院したと知って驚く。
愛し合っていたにも関わらず、母で後妻の道子(久我)が、戦死した先妻の息子・敬助の戦友・紺野と家を出たことが遠因の別れだった。
お見舞いに行くと、宗広は巻子と結婚してわずか数日で喀血したと言って、まだ2人の間に熱い感情が残っていることを感じる。

先妻のお墓参りで、母と会った松子は、それからだいぶ経って届いた手紙で父に知れ、
「道子と私の仲は戻らないが、母と子の縁は切れるわけではないのだから遠慮せず会いなさい。
 わたしになにかあって、道子が松子を頼ったら、2人で暮らすといい」と言う父。
その後、すぐ父は脳溢血で突然亡くなり、鎌倉の広い家に松子は一人残されて途方に暮れる。。


関係が複雑すぎて、話が先に進むにつれて、一体どんな因果なんだと驚く繋がりよう。
1人1人はみな悪い人間ではないのに、みんなあまりに不幸すぎる。
時々現れる「紅葉の赤」などが象徴的に使われていて、
この息が詰まる緊迫感は、以前発作が起きた清順さんの映画と似た状況で、
今回はクスリを飲まずにのぞんだため、また予期不安に怯えたけれどもなんとか堪えた

松子の叔父役の笠智衆さんが、あのいつものおっとりした調子で江ノ電が目の前を通ることが煩わしくないかと聞かれて、
「意外と誰も見てないものだよ。1人くらいは見てくれてもよさそうなものだと、
 こうして1日1回は眺めるんだけれども、誰も見ていない。
 頻繁に訪ねてくれる友だちみたいで、これもまたいいものだよ
などと話すシーンにとっても救われる思いがした(現代でゆったら笹野高史さんだなw
川端さん自身も“江ノ電の乗客として登場する”って書いてあるけど、分からなかった


石坂浩二さん演じる高谷幸二が、都内のブリジストン美術館に勤務している学芸員?なのも新鮮な設定。
私が好きなルオーはじめ、所蔵品が惜しげもなく映画に撮られていて、絵画をモチーフに小説を書いた夏目漱石さんとリンクした。

“ブッダの入滅後56億7千万年後の未来に姿を現し、多くの人々を救済する弥勒菩薩”の話が何度も出てきて、
「そんなに待つ人がいるんでしょうか? 私には考えただけでくらくらしそうだわ」
「56億7千万年も経たないと、人々は救われないのでしょうかね?」などと返す幸二。


1969年当時、岩下志麻28歳、森雅之58歳、久我美子38歳か。
森さんの演じる朝井は実年齢より老けた役だから、もしかしたら白髪や皺などメイクしていたかも。
森さんと久我さんは何度も共演して、様々な役回りを演じてきたけど、まさか後妻役とは
しかも、朝井は自分では気付いていないけど、けっこうチクリと痛いことを言う人なんだよね

「いいの、女はそれでいいのよ
 死んだ人は後で思い出せばいいんだわ」

というのが母・道子の口ぐせ。
そんな母を憎むことはなくとも、同じ運命だけは辿るまいと決心していたはずの松子もまた運命に翻弄されてゆくのを止められない。

本作の見どころは、なんといっても非の打ちどころのない岩下志麻さんの美しさ
着物を着こなし、お茶を淹れるシーンなどの立ち居振る舞い、ハッとした時の表情ひとつひとつに目を奪われる。
一種ヴァンプ的要素もある悲劇のヒロイン・松子のラストは、最初に書いたとおり、
冒頭シーンの伏線と交わって、あまりに不吉で、重苦しく、いたたまれない思いがした。

 


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